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2.略述
「基本的には現金一括払いのみの対応なんですが、成功報酬20万プラス諸経費の額に間違いなく見合う物であればなんとか……」
コーヒーを1人分淹れながら、明らかに諸事情ある葦原氏へ妥協案を出す。普段なら絶対しない対。
「祖父母から相続した貴金属のアクセサリーがあるのですが、いかがでしょうか?」
上目遣いで不安そうに尋ねる彼女に、ニコリと微笑んで返す。
情に絆されたわけではない。貴金属類、金や銀やプラチナなどは高値で取引されているし、価値が下がりにくい。長引く不景気に加えて超円安の今、投資として金を買う人が増えているぐらいだ。つまるところ、食いっぱぐれがない。
私の頭に渦巻く黒い計算式のことなど知る由もない葦原氏は、ホッとして本題に入った。
「人殺しの元カレに罰を」
本当にざっくりとまとめた相談内容だ。
彼女の元カレはそこそこ人気のホストらしいのだが、客の中で特に金払いのいい女性に結婚をチラつかせて近寄る、結婚詐欺まがいのことを行なっているらしい。
「ホストという職業なので浮気は覚悟してました。二股や三股ぐらいは想定してて、それでもハマっちゃった私も悪いんですけどね」
淹れたての熱いコーヒーを啜りながら、余計な茶々は入れずに続きを促す。
「けど彼は浮気なんてしませんでした。もちろん他の女性客からの連絡は頻繁でしたが、交際するのは1人だけ。別の女性と付き合う際は、しっかりお別れしてからしか付き合わない人だったんです」
「どうして他の女性としっかりお別れしたことがわかるんです?」
「私の時もそうでしたし、彼と付き合った女性数名と会うことがあり、聴きました」
「なるほど」
本人達が言うのであれば間違いないだろう。
葦原氏の話はなおも続いたが、特に気になったのはこの発言だった。
「最初は優しいけど、付き合いが深まると彼は豹変するんです」
なんでも、お金を出し渋るようになると威圧的な態度になり、終いには暴力までふるうクズ男だったという。
さらに詳しく話を聴き、解決の糸口が少しでも見えたら契約に移る旨を伝え、一旦お開きとなった。
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