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3.協力者
葦原氏から相談を受けた翌日、連絡は久方ぶりとなる電話番号へ発信した。
「不法侵入にならないように私有地に立ち入るにはどうしたらいい?」
『久しぶりに電話かけてきたと思ったら何っすか、いきなり!?』
電話の相手は楠本孝雄、大学時代の後輩で現役の警察官だ。元は介護職を希望していた彼だが、学生時代のある事件がきっかけで警察官を目指すようになり、夢を叶えた。
学生時代のある事件の際、私が手助けしたことに彼は大恩を感じているため、時折つけ込んでは調査に協力してもらっている。
「ざっくりとしか説明できないけど、とある私有地の中で犯罪行為が行われているという密告があった。十中八九間違いないんだけど、証拠がないから踏み込むことができないんだよ」
『そういうのは警察に任せてもらっていいっすか?』
話の向こうから呆れた声が届く。
「それじゃあこっちがおまんまの食い上げになるだろ。あくまで俺が主体じゃないと意味がないんだよ。それにいつも手柄は譲ってるだろ?」
『まあそうっすけど……』
キーボードの音が聞こえるので、不承不承ながら調べてくれてるのだろう。
『ダメっすね、先輩の案件じゃどう足掻いても難しいっす』
「やっぱり?」
『先輩は知ってると思うっすけど、令状取るには疑うに足る相当な理由や証拠がないとダメなんすよ』
「現行犯じゃないと難しいってことか」
現行犯であれば逮捕状の必要がないとされている。
『お世話になってるっすけど、先輩の特別な力は証拠にならないっすからね……』
オカルトは社会の仕組みの範囲外だ。たとえ犯罪の現場に居合わせた霊が犯人を見ていたとしても、「幽霊から聴きました!」は通用しない。
『どんな案件抱えてるか知らないっすけど、違法収集証拠は証拠能力がないと判断されることが多いっすよ』
「だからそうならないように相談の電話してるんだよ」
今の案件の内容なら、不法侵入の上の証拠だとしても、証拠能力なしと蹴られない自信はある。
しかし今回の件が解決したとしても、申請済みの探偵業は取り消されるだろうし、今後の仕事に影響大だ。
「ん?」
考え込んでいたその時、ふと頭をよぎるものがあった。
『どうしたっすか?』
「聞き込みだけなら問題ない? 俺じゃなくてお前の」
『それは問題ないっすよ』
ふむ、じゃあうまくいくかもしれないな。
「後で情報を送るからちょっと調べてみてくれ」
改めて個人捜査の限界を思い知らされたけど、私が警察を動かした事実があるから大丈夫だろう。
「さて葦原さんは……」
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