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8.報酬
稗田による連続殺人事件が白日の下に晒され、行方不明者6名が最も悲しい結果で発見された。
すべてを諦めた稗田の赤裸々な証言があるものの、彼女らの遺体は念のため司法解剖に回され、その後ようやく遺族の下に帰り、弔われた。彼女らは成仏できたのか、それだけが心残りだ。
「換金することになりますけど、思い出の品とか、残しておきたい物もあるのでは? というか、おそらくどれか1つでも過分なのですが……」
「いいんです。死蔵されるくらいなら、大切にしてくれる人の手に渡る方が良いと思います」
「わかりました」
結局は警察頼りになったが、葦原氏は私の行動すべてを近くで見ていたため、実質的に解決したのは私だと言ってくれている。
あの日、彼女は霊体で事務所にやってきた。
悪しき気配ではなかったが、霊の気配を感じ取った私が指輪を填めると同時だった。
――依頼料は現金でなければいけないでしょうか?
霊が現金を持ち歩けるはずもなく、彼女は祖父母から相続した貴金属類だけを頼りに、私に縋ってくれたのだ。
――元カレに相応の罰を与える手助けをお願いします。
私は彼女からの依頼を完遂した。
初めからすべてが透けた依頼だった。
被害者がわかっている、犯人がわかっている、遺棄された場所がわかっている、すべてが見通しが立っている透けた依頼。そして今の彼女自身も。
「本当にありがとうございました」
未練がなくなったのだろう、泣きながら微笑む彼女の姿がどんどんと薄くなって透けていく。しっかりと報酬を払った上でこうして消えていくところ、最後まで彼女の優しさが感じられた。
自分の無念だけでなく、同じ経緯で同じ場所に埋められることになった他の5人の分まで、彼女は背負っていた。
身勝手な理由で訳の分からぬままに命を奪われ、犯人以外の人が寄らぬ場所の冷たい土の下に無造作に埋められた彼女達。
過ぎ去った年月が長かった者は半ば地縛霊と化しており、自らの及び知らぬ不幸によって稗田邸に縛り付けられた。その束縛の輪に辛うじて入っていなかった葦原氏が、遠い地から力を振り絞って尋ねてきてくれたのだ。
「もう、逝くんですね?」
彼女はコクリと笑顔で頷いた。もう声は聴こえない。
知らず涙が流れた。
生まれ変わりや輪廻転生があるか実際のところわからないが、身勝手に踏みにじられ奪われてしまった彼女の、彼女らの次なる生が、どうか幸せであることを祈るばかりだ。
見上げた空が透きとおるように青かった。
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