Case.3 透けた依頼

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9.証人  時間は少し戻り、楠本が呼んだ応援を待っている時の話だ。 「これ以上掘ったりしないからさ、応援が到着するまで1人で庭にいさせてくれないか?」  私の急な申し出に困惑する楠本だったが、「大丈夫とは思うっすけど、稗田を見張っとくっす!」と言って外してくれた。  葦原氏以外の5人の霊は、それぞれが埋められた場所に静かに佇んでいた。 「こちらの方です」  葦原氏は私をとある霊のところへ案内し、「では……」と言って距離を取る。 ――視世さんが私の遺体を掘り出している間、じっと見つめてました。  彼女がそう教えてくれたこの霊は、倉田真純(くらたますみ)と名乗っていた。確かに他の霊とは何となく私を見る目が違う気がする。 「倉田さんでしたね。私に何か言いたいことがあるのですか?」  私の問いかけに彼女はコクリと頷いた。霊同士だと通ずる何かがあるらしく、葦原氏いわく彼女は最初の被害者とのこと。6人の中で最も自我が薄れており、切れ切れの単語でしか話せない状態だった。 「……セ」 「え?」  倉田氏の声は辛うじて絞り出したような掠れ声で、うまく聴き取れなかった。なかなか聴き取れずに何度も聞き返してしまったが、それでも倉田氏は根気強く伝えてくれた。 「ワイセ?」  ようやっと聴き取れたのは、昔日に聞いた覚えのある地名だった。 「倉田さん、あなたはワイセに行ったことがあるんですか!?」  興奮して尋ねる私を咎めるようなことはせず、ただただ頷いてくれる。予想だにしない方向からの情報に私は震えた。 「ヵんジた」  こちらをジッと見据え、倉田氏は必死に伝えようとしてくれる。 「ヵんジた、アナたニ、朔ノにおィ」 「朔!? あなたは坂本を知ってるんですか!?」  サイレンの音が聞こえる。時間はあまり残されていない。 「坂本に、ワイセで坂本に会ったんですね!?」 「ア……った」  掠れ声で返事をしながら頷く倉田氏。 「教えてください! あなたも例の道祖神に――」 「先輩、そこまでっす!」  不意に肩を掴まれた。  止める楠本の声は震えていた。誰もいない空間に必死で語りかける私の姿に恐怖したのだろう。 「もう少し、もう少しだけ!」 「無理っす! ただでさえ先輩がここにいることを誤魔化さないといけないんすよ!」  興奮しすぎて気づけなかったのだろう、玄関先にパトカーが停まっており、赤色灯が妙に毒々しく回っていた。 「ワイセにっ! ワイセに坂本はいるのか!?」 「行くっす! これ以上目立っちゃダメっす!!」  楠本に引っ張られ、倉田氏との距離がどんどん開いていく。  しかし彼女は首をゆるゆると横に振って、最後の問いへの答えとしてくれた。
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