Case.1 噂を鵜呑みにしてはいけない

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1.制約  心霊相談所なんて胡散臭すぎる看板を掲げているため、月に来所する相談者の数など片手の指で足りてしまう。証拠というわけではないが、18時にやってきた男子高校生は実に1週間ぶりとなる相談者だ。 「佐藤大地、高校2年生です。よろしくお願いします」 「所長の視世陽木です、よろしく」  相手が学生であれ必ず名刺を渡すことにしているが、礼儀を重んじているわけではない。学生に支払い能力があることは極めて稀なため、親御さんに渡してもらうために預けてるようなものだ。  簡素すぎる自己紹介が終わるとすぐ、佐藤氏が申し訳なさそうに口を開いた。 「あの……相談だけなら無料なんですよね?」  彼はホームページの『相談無料』というワードを見たと言って電話してきたため、高校生という立場も相まって、本当に料金が発生しないか気がかりでしょうがないのだろう。 「相談だけなら無料だよ。話を聞く前に、改めて注意事項を説明させてもらうね」  私の言葉にあからさまにホッとして頷いたのがいい証拠だ。 「まず、自業自得と思える霊障その他悩みの解決は受け付けてない」  いくら大金を積まれようとも、【坂本心霊相談所(うち)】では本人が企画したり、乗り気で参加した肝試し等のオカルト行為による困り事の解決は断っている。 「なんで自業自得だと依頼を受けないんですか?」  自業自得だろうが何だろうが金になるのは確かだが、簡単に割り切れるものではない。 「心霊系の依頼はこっちにも深刻な被害が出る場合があるからね」  依頼を受けると、調査等で実際に現地へ赴くことになる。依頼内容によっては祓いに立ち会わなければならない。現地に行けば憑かれる可能性があるし、祓いに立ち会って失敗に終わった場合、呪いの矛先がこちらに向いてしまうこともある。 「本人に責がない場合は仕事として引き受けるけど、自業自得のバカのために命を張る義理はないからね」  私が発した辛辣な言葉に、彼は表情をピクリと動かした。    実は『自業自得のバカ』という言葉は意図的に使用している。相談者の中には嘘の理由やストーリーを準備して「自分に責はない!」と嘯く者がいるため、そういった者を炙り出すためだ。  嘘の理由を述べて解決してもらおうとする者が『自業自得のバカ』という言葉を聞くと、ムッとしたり言い返したりと、ボロが出ることが多い。佐藤氏の反応も気がかりではあるが、とりあえず話を進めることにした。 「だからうちでは、相談を受けて今後の指針を提示するまでは無料なんだ。本格的に対処が必要な時だけ契約するかどうか決めてもらって、契約後に事実確認を行ないながら事態解決に向けて動く。そして完全解決後にかかった経費と成功報酬をもらう感じだね」  どんな依頼でも成功報酬は固定で20万円。高いと言われることも多いが、危険手当て込みなので値段交渉には一切応じない。 「ちなみに事実確認で嘘偽りが発覚した場合は強制的に契約解除。その日までにかかった経費プラス違約金10万円を請求することになる」 「違約金で10万円ですか!?」  ぼったくりじゃないかという目をして驚いているが、これもやむにやまれぬ事情がある。 「嘘偽りがなければ必要ない10万円だよ。違約金というよりは、事前のふるい落としや他の案件を断る分の補填という意味合いが大きいんだ」  心理的な揺さぶりだけでは動じない嘘つきな猛者もいるので、10万円という高額な違約金を提示することで最後の脅しをかけている。  また、今は1人で運営しているので月に2件が受注限界だ。ただでさえギリギリの受注件数と収入なのに、2件中1件が立ち消えになったら収入が半減してしまう。高額な違約金でも取らないと生活していけない。 「ざっくりまとめると、本気の依頼なら20万円プラス経費で引き受けるし、自業自得な案件なら事前に断るし、後から嘘が発覚したら契約解消の上で違約金10万円ってこと」 「わ、わかりました。僕は真剣な相談なので大丈夫です」  明け透けな説明に気圧されながらも、佐藤氏の相談が始まった。
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