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2.噂話
「うちから少し離れたとこに、一家心中があった家があるんです」
一家心中事件のせいでいわく付きとなったその家は、『売家』の貼り紙がされているものの買い手がつかず、管理会社も放置状態だという。
「一家心中は本当にあったことなのかな?」
「はい。かなり昔ですけど、新聞でも取り上げられたらしいです」
人の出入りがない建物には根も葉もない噂が付きまといやすいため、噂の真偽を確かめるだけでも手間だ。今回は実際の出来事らしいので、事前調査が容易に済みそうだと心の中でほくそ笑んだ。
「いろんな噂があるんですけど、1番有名なのは、リストラされて精神に異常をきたした父親が子ども2人と妻を殺して自分も後を追ったって噂ですね」
この噂を聞いて私は少し小首を傾げた。事件自体は実際にあったものなのに、噂の内容が妙に眉唾っぽいというか、えらくありふれた都市伝説のように感じられたからだ。
「佐藤くんはその噂を誰に聞いたの?」
「先輩とか友達ですね。昔からある噂なんで、地域の人はだいたい知ってると思います」
「なるほど。で、その家と君はどういう関係が?」
確信に触れるべく続きを促したところ、これまでスラスラと受け答えしていた彼が少し黙り込んだ。
「どんな内容でも否定する気はないから、何でも言ってごらん」
優しく声をかけると、半信半疑ながらにおずおずと語り出した。
「ある日いきなり、その家の門のところに女の子の霊が視えるようになったんです……」
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