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ふたつの記念
文化祭当日…やはり、碧はメイドとして駆り出されていた。
違和感なく、他のメイドたちと馴染んでいる。
俺は執事として対応しながらも、碧に変な虫がつかないか目を光らせていた。
交代の時間になって、自由時間ができた。
他のクラスを碧と一緒に見て回ることにした。
商売繁盛に目がない女子たちからは「二人が歩けば、うちのクラスの宣伝になっていい」と言われ、衣装のままで出歩くことになった。
やはり目立つようで、途中俺たちと撮りたいと何度か頼まれた。もちろん、クラスに来てねと営業した。
ひとまず3組を覗くと、奥寺が店番をしていた。
「お〜、来てくれたの? …ってすごい格好だね〜、二人とも」
奥寺は笑って「優里香にも見せたい」と写真を撮る。
「さすがに長時間着てると、慣れてくるもんだな」
「僕は…慣れちゃいけない気がする」
そう言う碧に、俺と奥寺は笑った。
3組は縁日がテーマらしく、駄菓子屋や射的などを用意していた。
商店街が協力してくれたらしい。
「楽しそう!」とはしゃぐ碧。
ちっとも当てられない射的に夢中になっていた。
「最近、変わりない?」
碧を見守りながら、奥寺が聞いてきた。
「ん〜…。別に普通だけど…前にたまたま、あいつの母親と会っちゃって。たぶん、めっちゃ悪い印象持たれてる」
奥寺は、あははと笑う。
「笑うな」と俺がツッコむ。
「碧の母ちゃんなぁ〜、俺も初めて会った時、緊張したな〜」
懐かしむように言い、少し間を置いてまた話し始めた。
「まるで品定めするかのように見られて、正直怖かった印象だけど…」
奥寺は碧の所へ行き、後ろからそっと追加のコルクを渡し、戻ってきた。
「碧に聞いた事あるんだ。昔、転校先でいじめに遭うことがあって、暴力もあればお金を要求されることもあったんだって。それがあったから、母親も碧が一緒にいる相手にシビアになっちゃったらしいよ」
奥寺が俺の肩にポンと手を置く。
「久東くんなら大丈夫。分かってもらえるよ。…あ、もしかして、その髪…」
奥寺が俺の頭をじろじろと見始めた。
「これは別に、それがあったから切ったとかじゃねーから!」
妙に恥ずかしくなって、碧の所へ行き、代わりに景品を何回も撃ち落とした。
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