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――年末。
俺と碧は近所の公園を散歩していた。
昨夜降った新雪に、足跡をつけて楽しそうに歩く碧を俺は穏やかな気持ちで見ていた。
少し遠くで、散歩中の犬が同じように雪ではしゃいでいる。
「ねぇ、渡良瀬さんちのワンちゃんって、名前なんだっけ?」
手についた雪を払いながら碧が言った。
「何だっけな、ハッピーだったか、ハピかな? 息子さんが名付けたって言ってた」
「いいな〜、会いたいな〜」
「渡良瀬さんもお前に会ってみたいって言ってたぞ。お前、今から猫かぶっとけ」
「なんでよ、かぶる必要ないでしょ〜」
碧が頬を膨らます。
渡良瀬さんは、あの図書室での写真がお気に入りなようだ。ファンタジー感があって好きらしい。
あのメイドが、こんなちんちくりんだと知ったら俺の写真がイメージダウンだ。
俺は渡良瀬さんのアシスタントになった。
まだ学生だから、学校生活に支障のない範囲で学ばせてもらっている。
母親に相談した時、喜んだかと思えば急に泣き始めて、凛と顔を見合わせて驚いた。
「パパも写真が好きだったから…なんか繋がってるなぁって思ったら、泣けてきちゃった〜」
そう言って、しばらく泣いていた。
親父のことは、残された写真でしか分からないけど、俺にも繋がれたバトンがあったのかなと嬉しかった。
親父が撮った写真を今更だけど、見てみたいと思った。
「今日って…東堂くんを励ます会なの?」
「あ〜、あいつ彼女に振られたからな」
俺たちはこれから、岩田と宇佐美と合流して、東堂の家に集まることになっている。
体育祭で彼女ができた東堂だったが、文化祭でのモテぶりに彼女が嫉妬して、揉めてしまったらしい。
今日の会は、岩田が企画した。
たぶん、励ますつもりはない。
かたや奥寺はというと、優里香先輩とは双方の親公認のお付き合いらしく、岩田たちにとって奥寺は、雲の上の存在だ…。
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