あいしょう、あいしょう。

2/4
前へ
/4ページ
次へ
 ***  結構リアリストだ、という自覚があった。多分そのせいで、今まで恋人として長続きする相手がいなかったのだろう。  そう、恋愛をしたことがないわけじゃない。そして多分僕は、イケメンかブサメンかと言われたらイケメンの部類に入るのだと思う。女の子の複数に言われたから、まあそうなんだろうという予想程度だけれど。  恋人になるのなら、とにかく相手と価値観が合うことありき。対等であることありき。それをついつい気にしすぎてしまう。対等、というのは女の子にプレゼンとをしないとかご飯を奢らないとかそういうことではない。お互いに相手を同じくらい好きになれなければ成就しない、という意味だ。僕は、自分が一方的に尽くす恋なんかしたくないし、逆も然りなのである。  それから、お互いの価値観が揃っていなければ話にならない。例えば、僕はちょっとだけ人より綺麗好きだという自覚がある。部屋に脱いだものが落ちているなんてあり得ないし、食べ終わった食器を流しに置きっぱなしにしておく神経も信じられない。  ようはそういうことで女の子としょっちゅう揉めて、すぐに別れる羽目になるのである。相手が可愛いとかお金があるとか、そういうのは二の次だった。そして、“価値観”を最優先にする人間は、婚活アプリとは極めて相性が悪いと思っている。年収のような、わかりやすく数値化してラインを引くことができないからだ。顔のように、見ただけでわかるものでもない。  その上僕は、家族が欲しいという願望もなく。そりゃ婚活アプリを使う必要もなかろうと今まで触ってこなかった。男性のみ有料なんて馬鹿げたものも多かったから尚更に。  ただ、今回僕が登録することになったアプリは少しばかり違っていたのだ。  男女双方無料。その上で、ちょっと面白いキャッチフレーズがついていた。 『運命のふたりを、AIが必ず見つけ出します!』  つまり、入力されたデータをもとに、一番相性のいい“たった一人”をAIが見つけ出してくれるというのである。そんな可能なのかな、と僕は無駄に長ったらしい概要欄を書きこみながら思った。  確かに昨今のAIは凄いかもしれないが、人間の細かい趣味趣向や、心の動きまで配慮できるほどの性能はない。まったく“コレジャナイ”感のある相手とマッチングさせられてしまいそうな気がしないでもない。 ――まあ、それならそれでもいいか。どうせ、お試し登録だし。無料で即退会もできるし。  運よく、本当に素晴らしい相手が見つかって、この相手なら結婚してもいいと思えたら儲けもの。おばあちゃんも喜ばせられるし、ひそかに心配しているであろう両親も安心させられるだろう。  はっきり言って、その時の僕は遊び半分のようなものだった。  希望を細かく記入し終わったところで、“マッチングスタート”のボタンを押す。待つこと十秒ほど。くるくると真ん中で回っていたハートマークが止まると同時に、ぱっと画面が切り替わった。  表示されたのは、一枚の女性のデータ。僕は目を見開く。 ――この人が、僕の……運命の人だっていうのか?  画面にはでかでかと、こんな文字が躍っていた。 『貴方の愛するべき人はこの人です!赤い糸は今確実に、運命のふたりを結びつけました!』
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加