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正午を告げる鐘の音がスピーカーから流れて、今日も昼休みが始まる。
午前中に予定していた仕事はきちんと済ませたので、いつものようにすっきりした気分で、私は食堂へ向かった。
「Aセットです。どうぞ」
注文カウンターで、指定のランチセットを手渡される。それを持ち運びながら、座る場所を探そうと見回すと……。
ふと視界に入ったのは、同期入社の田中の姿。長いテーブルの端の方で、ぽつんと一人で食べている。
部署も違うし、特に親友というほどでもないから、しばらく田中とは話をしていなかった。ちょうどいい機会だろうと思って、彼の隣へ行く。
「よう、田中。久しぶりだな」
「ああ、西川か。うん、まあ元気にやってるよ」
口ではそう言うものの、顔を上げた田中は、明らかに表情が暗い。
「いや、とてもそうは見えないぞ。何かあったのか?」
「たいした話じゃないんだが……」
隣に座ろうとする私をちらりと見てから、食べていたものに視線を戻す。
彼は社食のメニューではなく、手作りっぽい弁当を持ち込んでいた。
大きめの弁当箱の右半分に白いご飯が敷き詰められ、左半分がおかず。既にいくつかは田中の胃の中のようで、残っているのは卵焼きとコロッケ、ブロッコリーとプチトマトだった。
「どうした? その弁当に何か問題あるのか? 私のランチセットより旨そうだぞ」
「ありがとう。そう言ってもらえると、俺も嬉しいよ。一応これ、愛妻弁当だからさ」
田中の顔が少しだけ明るくなる。照れ笑いのようにも苦笑いのようにも見える、そんな笑みを浮かべていた。
彼の「一応これ、愛妻弁当」という言い方には眉をひそめたくもなるが、私の内心には気づかないまま、田中は言葉を続ける。
「まあ弁当も問題といえば問題なんだが……。とりあえず話の発端は、うちで使ってる家電たちだよ」
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