Closer

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彼が私を安心させる為にするハグとはまた違う、まるで子供が母親に執着するときのような強さは、この世でまだたった一人だけ存在する鏡合わせの彼を確かめるただ一つの証明。 『オルカ……私達は、もうずっと一緒よね?』 『うん』 『もうどこにも行かない?』 『うん』  壊れ物を庇うように力を緩めた彼は、私の肩に顔を埋めながら『ねぇ』と囁く。 『人間は泣く事によって悲しさを紛らわすらしい……でも僕達の硝子玉じゃ、涙の一滴も捻り出やしない』 『そうね……でも、背負った悲しみは私と半分こにできるわ。共に味わった喜びなら、きっと気持ちも倍になる……ほら、パパも言っていたじゃない』 ──『お揃いの金髪にお揃いの碧い瞳……各々が主役級の美しさを持ちながらも、お互いを支え合うペアドールとして生きてゆくのだよ』  春風が花のひとひらを撫でるように、惜しみない愛情を注いでくれたフィリットの言葉がすぐ側で聞こえた気がした私は、不恰好な笑顔をオルカに注ぐ。 『そう……だね』  埋めた顔を肩から引き上げた彼の片眼から投げられた視線に、不確かで心許ない光が僅かに宿る。きっと私も、同じような顔をしているに違いない。  パパの元で精巧に作られた私と貴方は、2人で1つのかけがえのない存在。例え誰がそれを阻んでも、運命の袂を分つ事なんてできやしない──そうでしょう? 『『いつまでも一緒だよ』』  人が愛を表現する時、唇は自ずと触れ合うらしい。  磁石と鉄が引き合うように、心を持った無機物の唇が人間の真似をしてそっと重なると、言い知れぬ安心感と幸福感がひび割れた心の隙間に染み渡る。  引き離しては何度もまぐわるその行為は、一時の夢でも構わないとすら思えるほど甘く、過ごしてきた時間の中で一番美しかった。 『大好きだよ』  抱きしめ合った人形が愛を誓った時、その2人を映し出すようにスポットライトが強く光る。  近付くスポットライトはガソリンの排気に独特な香りをばら撒き、ドネークが吸っていた煙草とはまた違うソレと共に凶暴な音で速度を上げた。 『危ない……ッ!!』  車道の真ん中に佇む2体の人形は、車と接触した衝撃に耐え切れず大きく夜空へ投げ出されると、私を庇うオルカの悲痛な声と私の千切れた部品を撒き散らかしてゆく。 「んなぁ?!なんかぶつかったぞ……」  霞む視界の遠くに見える丸みを帯びたボンネットと、車を縁取る様なバンパーが特徴的なその車から降りてきた恰幅の良い紳士はライトを取り出してあたりを見回すと、半壊したペアドール(私達)を眺めた。 「人形……?あぁ、誰かがサンモンレフのゴミを捨てたんだな?……たくッ、これだから都会は……」  散り散りになってピクリとも動かないオルカの姿が真っ赤な視界を横切り、壊れて痛む感覚に意識が遠のく私が耳にしたのは、愛車の傷を検めて顔を顰める紳士の溜め息だった。
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