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ピエロの圧に屈して泣く泣く私達を手放すことになったパパは、愛しい我が子を惜しむように何度も眉間に深い皺を寄せる。私達を丁寧に大きな木箱に納めた彼は、星に願いを掛けるみたいに指を組んでそっと囁く。
「あぁ、私に負債が無ければこんな事には……サンモンレフは実に様々な人形が集まる。あそこへ行けば確かに有名にはなるだろう。だが……表舞台に立ったら最後、塗装の欠片が擦り切れるまで踊らさせるのだよ……」
掠れた声のフィリットが静かに鼻を啜り、労わるような双眸の焦点が私達に注がれる。
「ドネークには気を付けなさい。アイツは確かに切れ者だが、金の為ならどんな手をも惜しまない奴だ。……お前達の行末に、幸の多からんことを」
透き通る絹で空間を埋められた木箱は、そっと蓋を閉じて暗闇をもたらす。その静かで虚無の空間に恐ろしさを感じた私は、灯火を頼るように邪魔くさい後の間からオルカの手を握りしめた。
『大丈夫だよ。……カフカと僕は、ずっと一緒だから』
『……うん』
『喩えどんな事があっても僕が守るよ……ずっとね』
オルカの指先はひんやりとした冷たさに木だけではない温もりを乗せて、私を全てから庇うように抱き寄せる。
『私も……私もオルカとずっと一緒よ』
息苦しい絹の帷に包まれた2人は、狭い方舟が荒波に揺られるようにフィリットの店を旅立った。
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