第一話 ルードウィンク公爵の苦悩

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第一話 ルードウィンク公爵の苦悩

 「私の力ではここまでが限界だ。すまない、リア……」  グレイグ・ルードウィンクは顔に苦渋の色を滲ませた。  大陸の東側に位置するケンブル国は、鉱山を主とした数々の豊かな資源を有している。それゆえ、資源国の領土を狙いに他国から侵略攻撃を受けることも少なくなかった。  しかし、侵略戦争が起こっていたのは今や過去のこと。  ここ10年は大きな(いさか)いもなく、国民は平穏に暮らしていた。  現在、国内では建国200年を迎えるにあたり、国民は祝賀行事の準備に追われていた。  ところが、ケンブル国の中心地である首都では、貴族も庶民も自国の200周年の祝賀行事などどうでもよいとばかりに、皆ある話題に執心だった。  「本当ならば、私だってお前のことを嫁になどやりたくないのだ。いつまでもずっと、このルードウィンク家で大切に守ってやりたいと思っている……」  「……」  「しかし、私は公爵だ……貴族の(かがみ)となる正しい生き方をせねばならない。アルレットが王妃となった今、ルードウィンク家はほかの公爵家よりも一目置かれているのだ。決して私情などで社会の秩序を乱してはならない。わかるな?」  グレイグは眉間に深いシワを刻みながら、娘であるリア・ルードウィンクを見つめる。    そして、改めて愛娘の奇跡的な美しさにため息をもらした。  黄金に波打つツヤツヤの長い髪、どんな宝石を前にしても霞んでしまうような青く澄んだ瞳、常に光を照らしているような透き通る白い肌。華奢ながらも女性らしい曲線を描いた体躯。リアを造るすべてが神様からの贈り物のようだった。    一人だけ発光しているような煌めきを放つ娘を見て、グレイグはため息をさらに深くした。    建国200年の祝賀行事よりも国民の関心を集めている話題。  それはルードウィンク公爵家の美貌の娘、リア・ルードウィンクの結婚についてだった。
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