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「アンナ、お前一体なにをした?」
「まあ、まあっ! なんて素敵なお返事でしょうっ! リアお嬢様がレオンス様との結婚を前向きに考えてくださるなんてっ……今日はなんて素晴らしい日なんでしょうっ! 神様はレオンス様の日頃の行いをちゃんと見て下さっていたんですね。ああっ! 天国の旦那様と奥さまもさぞお喜びになっていることでしょうっ」
アンナは目に涙を浮かべて神に祈りを捧げていた。
感激して涙するアンナとは対照的に、いつになく冷めた目でアンナを見下ろすレオンス。
「私はリア・ルードウィンク公爵令嬢に求婚などしていない。最上位の公爵家に、しかも国王の義父であるルードウィンク公爵の令嬢になど……自分の身の程がわからないほど私は愚かな人間ではない。アンナ、お前だな」
反論の余地など一切与えるものかと捲し立てるレオンス。
「少しは落ち着いてください」
「私は落ち着いている。いいから早く説明をしてくれ」
「……先週の中頃、伯爵以上の家に通達があったんですよ。リア・ルードウィンクの夫に立候補するものはルードウィンク家に手紙を出すようにと」
てっきりしらばっくれるものかと思いきや、アンナはあっけないほどすぐに白状した。
「アンナ……お前、まさか」
アンナの説明を聞いてレオンスの顔から血の気が引いていった。
「ええ。私が出しました」
アンナは主とは対照的な満面の笑みを浮かべて大きく頷いた。
「……アンナ、お前、一体自分が何をしたかわかっているのか?」
レオンスはひどく冷たい声でアンナを責める。
自分の了承もなしにあのリア・ルードウィンク公爵令嬢に手紙を、それも夫として立候補をする手紙を出すなど、身の程知らずなどという安易な言葉で表現することすらレオンスには恐れ多いことだった。
「ご安心ください。レオンス様を騙って手紙を書くような真似は誓ってしておりません。きちんと、私の名前でレオンス様をお勧めしたい内容をしたためたまでです」
「そんな返答で、俺が安堵すると本気で思っているのか」
「なぜいつまでもそのような顔をされるのです? 経緯がどうであれ、リアお嬢様はレオンス様を選ぶと言って下さっているのですよ?」
「……それは、何かの間違いだろう。お前、手紙に嘘ばかりを並べたてたのではないだろうな」
「そんなことは誓ってありません! 私は真実しか書いておりません。それに、レオンス様は覚えていないかもしれませんが、リアお嬢様とレオンス様は一度私の娘の屋敷でお会いになったことがあるんですよ?」
「……」
レオンスは急に口ごもり、アンナから視線を外す。
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