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ケンブル国では女は16歳、男は17歳で成人となる。
成人を迎えると飲酒や喫煙が可能になり、結婚などの大きな契約ごとに関しても保護者の同意なしで行うことができる。
そして、ケンブル国には国の法律のほかに貴族社会のみ適用される規則がある。
それは、【貴族女性は成人を迎えた後、直ちに結婚しなければならない】というものだ。
ケンブル国で生涯独身が許されているのは、庶民と貴族男性のみ。
貴族女性の結婚相手は当然貴族であり、階級が等しければなお良いとされていた。
慣例であれば、貴族女性は15歳で貴族学校を卒業後、16歳になるまでに夫となる相手を見つけ、16歳の誕生日を過ぎた辺りに結婚をするという流れだ。
リアは今年で17歳となった。
17歳で未婚の貴族女性はケンブル国ではリアとあともう一人だけだった。
言わずもがな、父であるグレイグの元にはリアが成人を迎える前から縁談話がひっきりなしに舞い込んでいる。
だが、グレイグはその全てを無視していた。
幸いなことに、貴族社会で最も権力を持つ公爵家のグレイグに直接縁談を持ちかける愚か者はいなかった。
それはグレイグの長女アルレットのおかげでもある。
今から8年前、ルードウィンク家の長女アルレット・ルードウィンクは現四代目ケンブル国王の妻となり、王妃となった。
それにより、ケンブル国にはルードウィンク家以外にも公爵が7家存在するのだが、同等の公爵家であっても王妃の生家であるルードウィンク家には強く意見を言うことができなくなったのだ。
最高位の貴族であり、大きな後ろ盾を得たグレイグは、なんとかリアの結婚を先延ばしにしていた。
自分の立場を私的な感情で利用するなど公平公正のグレイグからは考えられない行動だったが、末娘の結婚となれば話は別だ。
「まさか、嘆願書など……」
グレイグは崩れ落ちるように書斎の椅子に腰かけた。
グレイグのデスクには一枚の手紙が開いてある。
白い上質な封筒を密閉していた赤いシーリングスタンプには王家の紋章が描かれていた。
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