第一話 ルードウィンク公爵の苦悩

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 先週、グレイグのもとに国王から手紙が届いたのだ。  手紙には、リア・ルードウィンクの夫候補となる貴族たちから国王の元に嘆願書が届いたと記されていた。  嘆願書の内容を要約すると、リアの結婚相手を直ちに決めるようにグレイグに圧力をかけてほしいというものだったそう。    王妃であるアルレットからグレイグの気持ちを伝え聞いていた国王も今日まで見て見ぬふりを続けてくれていたのだが、鬼気迫る貴族たちからの嘆願書を受け取ってしまった以上、国王として貴族同士の醜い諍いが起きる前にリア・ルードウィンクの結婚を促すほかなかった。  「リアには好きな相手などいないのだろう」  「……」    再確認するように尋ねるグレイグの言葉の後、リアが小さく頷いた。  「はあぁっ…………親バカだと罵られても、私はただ自分の娘には好きな相手と結婚してほしいのだ。ただそれだけだというのに……」  ケンブル国では庶民の社会でも貴族の社会でも恋愛結婚は珍しかった。  多くは、家柄や年齢が釣り合っているかどうか、もしくは、子どもが生まれる前に親同士が子の結婚の約束を交わしていたなどして結婚していた。    そんな中、貴族の中でも最高位の公爵家に生まれたグレイグは恋愛結婚だった。  今は亡き妻アリシアとは貴族学校で仲良くなり、学生時代から密かに付き合っていたのだ。  美しく気立ての良いアリシアだったが、アリシアの家が伯爵という理由だけでグレイグの両親は反対し、同じ公爵家から妻を選ぶように説得した。  しかしグレイグは決して納得しなかった。  その後紆余曲折を経て、念願かなってグレイグとアリシアは結婚し、二人の娘に恵まれたのだった。  リアの姉であるアルレットも政略結婚などではなく、ケンブル国王と恋に落ちて結婚をしている。  グレイグが引く手数多の末娘をいつまで経っても結婚させないのは、愛する妻に先立たれて孤独だから、親離れができていないから、美貌の娘に釣り合う相手を選り好みしているから……など、世間は好き勝手言っているが、真実はどれも違う。  リアに好きな相手が現れないからだ。  グレイグはただ、リアに好きでも無い相手と結婚してほしくないだけだった。
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