第二話 黒の師団長の青天の霹靂

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第二話 黒の師団長の青天の霹靂

 先代ケンブル国王が現ケンブル国王に王位を譲って早10年。    以来、辺境での小さな抗争は幾度か起こったものの、国を揺るがす大きな戦争は一度もなかった。    それはひとえに、代々のケンブル国王から現ケンブル国王が屈強な兵士の育成、軍隊の形成に惜しみない国家予算を投じてきたからだ。  1000を超える軍人で構成された白騎士と、国王直属の少数精鋭で構成された黒騎士の鉄壁の守りによって、現在のケンブル国は建国以来最も穏やかな情勢を保っていた。  しかしその一方で、公爵のみで構成された文官たちは、完全実力主義で構成された黒騎士の存在を野蛮だと嫌っていた。  爵位を持たなければなれない白騎士と異なり、爵位など関係なく力がすべての黒騎士。  最上位の貴族社会で生きる文官たちは爵位をもたない黒騎士が王宮をうろつくことを快く思っていなかったのだ。  中には、これからの時代は和睦的交渉だと騎士の存在そのものに異論を唱える文官もいたが、反騎士派にケンブル国王が耳を貸すことはなかった。  「レオンス、そろそろ休憩しようぜ」  ケンブル国王が住まう宮殿の東側に位置する巨大な要塞は軍人専用の訓練場だ。  ケンブル国の騎士団に所属する者であればいつ何時も自由に出入りすることができるのだが、普段はほぼ黒の騎士しか使用していないため、実質黒の騎士のための訓練場になっていた。  「おいレオンス、無視すんなよ」    シモン・ノースは軍人とは思えないほど爽やかな笑みを浮かべていた。  ノース侯爵家の五男であるシモンは、いつも人好きのする笑みを浮かべている。  母親似の優しげな顔立ちに加えて愛想も良いものだから女性はいつだって彼を放っておかない。  女性を丁寧にあしらいながらも、男性からも疎まれないよう自然に立ち振る舞うことができるのはシモンの生まれ持っての才能だった。  「俺はまだここにいる。お前は先に行けばいい」  国王直属部隊、黒の騎士師師団長レオンス・クロスターは、自分の右腕であり幼馴染でもあるシモンを一瞥することなく鍛錬を続けた。
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