第二話 黒の師団長の青天の霹靂

4/4
1575人が本棚に入れています
本棚に追加
/154ページ
 ダミアンから受け取った手紙の封に押された青いシーリングスタンプは紛れもなくルードウィンク家の紋章だ。  リア・ルードウィンクという名前は本人が書いたのか、とても丁寧で綺麗な文字だった。  「本当にリア・ルードウィンク公爵令嬢からなのか?」    紋章のシーリングスタンプが押されてあっても未だに信じきることができないのは、それほどまでにレオンスが女性とも貴族社会とも、当然リア・ルードウィンク公爵令嬢とも縁のない世界で生きてきた証拠なのだ。  家紋を見ても(いぶか)しげな顔を隠さないレオンスにダミアンは深く頷いてから答えた。  「ルードウィンク家の執事、私の兄でもあるオリバーから直接私が受け取りましたので、間違いではないと思われます」  「お前の兄オリバーはルードウィンク公爵が最も信頼する側近だろう……」  ただの使用人ではなく、わざわざルードウィンク公爵家にとって一番重要な側近を使って届けさせた手紙の内容とは――。  封を開ける前からレオンスの胸に妙な緊張が走った。  社交性のないレオンス宛に個人的な手紙など年に一通、二通来るかこないかだというのに。  なんでまた、今まで深く関わったことのない名門の公爵家、それもあのリア・ルードウィンクからの手紙など、ダミアンが血相を変えて走ってきたことも納得ができた。  確かにこの状況は、レオンスにとってもダミアンにとっても、前当主の死よりも予測不可能なことだった。  ダミアンから無言のプレッシャーを受けていることは気づいていたが、それでも一呼吸置いて、レオンスはゆっくりと封を開けた。  「……」    封筒には便箋が一枚だけ入っていた。  便箋にはとても短い文で、こう記されていた。  ーーーーーーーーーーーーーーーー  レオンス・クロスター侯爵様  結婚のお話、進めさせていただいてよろしいでしょうか。  リア・ルードウィンク  ーーーーーーーーーーーーーーーー  便箋を片手に、レオンスは微動だにせず石のように固まっていた。    「旦那様?」とダミアンが声をかけてもレオンスは反応しない。  言葉を失ったまま身動き一つしない主人が心配でというのは建前で、漆黒の師団長とも恐れられている主人をただの木偶(でく)の坊に変えてしまった手紙の内容が知りたくて。  ダミアンは不敬であることは承知の上で、レオンスが持っている便箋を覗き見た。  「……」  「……」 そして木偶の坊がまた一つ増えたのだった――
/154ページ

最初のコメントを投稿しよう!