ヤマタイ国

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 神官を退出させ、ヒミコは桐の神殿で一人になった。食事を済ませてしまおう。ヒミコは食物を運んでくださる天地の神々を称える祝詞(のりと)を唱え、笹の葉に盛られた料理に手をつけた。  蒸した米は甘く柔らかい。  糸のような細い魚も繊細な味がして米に良く合う。この国は水源が豊かだ。  ヤマタイ国には糸のごとき魚が獲れる清流がある。糸魚川(いといがわ)と呼ぶ。  ヒミコは食事を終え、土器に貯められた水で手を洗い、銅鏡を取り出した。  黄色がかった滑らかな金属が、ヒミコを映す。  16の年を迎えた、立派に子供を産める体形となった身体。衣服は高貴な者だけが纏える紫の絹織物だ。首に下げる宝玉はヤマタイ国でしか産出しない珠、翡翠(ヒスイ)だ。  翡翠こそ、ヤマタイ国の要。ヤマタイ国でしか産出されない、特産品なのだ。透明感のある硬い緑色の宝石は、全国津々浦々にまで珍重され、大陸への重要な貿易品としても機能している。神官が各地の様子を見てきたように話すことができるのは、この交易によって国々の状況がすぐに耳に入るところが大きい。  銅鏡を近づけ、視線を顔に向ける。卵型のつるりとした顔、薄い一重のまぶた、大きな黒い瞳。  くちびるは細く、紅をさせば男を見とれさせる形だなと思う。
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