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ヒミコは鹿の背中から降り、街を歩いて回った。石や竹を組んだ豪華な家や、地面に穴を掘り、その上に木造の屋根を取り付けた小さな家を眺める。
どの家もかまどの火は絶えていないようだ。
すなわち貧民層もその日の食事には困っていない。ヒミコは自身の治世が誤りではないことに安堵し、ほっ、と息を吐いた。
「ヒミコ様、キジを捕まえたよ」
前歯が抜けたばかりの少年が嬉しそうに駆け寄ってきた。手には茶色い羽を持ち、青い首をした鳥が握られている。
「大物ね。どうやって捕まえたの?」
ヒミコが問うと、
「親父が弓で射ったのさ」
と自慢げに胸を張った。
「ヒミコ様にけん、なんだっけ、あげようと思うんだけど」
「ありがとう。でも、献上なんてしなくても大丈夫。私はお腹がいっぱいですよ。お父様とお母様と、仲良く食べなさい」
ヒミコは少年の頭を軽く撫でた。少年は恥ずかしそうに顔を赤める。
「いいものをあげるわ」
ヒミコは微笑んで、腰の袋から砕いたクルミを甘葛で煮固めた菓子を取り出した。一つつまんで少年の口に入れてやる。
少年の目がぱっと見開かれた。
「すげえ。甘い」
「さあ、お家に帰りなさい」
少年は深くお辞儀をして、家路に駆けていった。
甘葛とは、ツル性の植物から採れる樹液を煮詰めて作った甘味だ。高価なため、ヒミコのような国の指導者や、一部の高官しか口にできない。ヒミコはあの少年の幸せそうな顔が嬉しかった。
もっと量産できれば国を豊にすることができると思うが、残念ながら甘葛は希少だ。庶民が口にできる甘味は、桃か熟した柿だけだ。
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