翡翠の都

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 ヒミコは歩きながら、弓、という言葉を考えた。  人間は弓によって他の動物とは一線を画すようになったのかもしれない、とぼんやりと思う。  動物の争いは自分の爪や牙が届く範囲で行われる。自分も、相手も命がけだ。  半面、弓はどうであろう。  自らは絶対の安全圏にいて、一方的に相手を攻撃する。これでは相手の痛みを理解することができないと思うに至る。痛みを理解できないから戦乱は止まらない。もっと大きな力を得たいと考える。だから人間は国を欲し、争う。  いや、それだけではない、と考えを深める。例えば、翡翠だ。透明な緑色やカワセミのように青い宝玉は、ヤマタイ国でしか産出しない。その土地土地の不均衡がともすれば争いを生むのかもしれない。  ヒミコは街のはずれまで歩いた。これより奥地は翡翠の採掘場だ。太陽はすでに落ちかかっている。あまり遠出をして、神官たちに要らぬ心配をかけるのは可哀そうだ。ヒミコは再び鹿に乗り、引き返した。  帰り道、鹿に揺られながらヒミコは下腹部をなでる。  そろそろ夫を持たねばならない年齢となった。幼いころは国の誰かと結婚して、小さくおさまることを考えたが、それは甘いかもしれない。今では中央の豪族と結婚して、大きな国を作り、大勢が幸せを享受できる状態に導かなければならないと心が叫んでいる。  翡翠交易で他国の情勢は手に入れてある。新興勢力の邪馬台国はどうか。いや、あそこは女王が統治している。となれば、中央の大和か。  あてどもなく考えていると、すぐに神殿が見えてきた。
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