邪馬台国

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邪馬台国

 ヒミコは分厚い木綿の旅装束に着替えた。腰には青銅の短剣を帯びる。数十人の供を連れ、大和を目指す。ヤマタイ国を離れると獣道のような悪路が何か所もあるが、よくなめした熊の毛皮の靴は、尖った岩や急峻な崖でも破れることは無かった。  随従達には氷を持たせている。雪の多いヤマタイ国には沢山の氷室がある。氷のおかげで腐りやすい食物を山奥まで運ぶことができる。山地へ入ると自給できる食料はほぼ山菜のみとなるため、氷漬けの果物は重宝する。    神の呪いなのか人間の身体の弱点なのかは分からないが、長い間新鮮な食糧を取らないと歯茎がら出血し、だんだんと死に至る。内陸の国に多い病だ。氷の、食糧の鮮度を保つ特質のおかげでこの病に侵されないヒミコは、改めて他国と比べてヤマタイ国の優位性を知った。  翡翠だけではない、氷も国の宝だ。  3日かけて諏訪(すわ)の国に入る。住民や兵士には、諏訪では捕れない魚と、翡翠の勾玉の供出で通行許可を得た。    人の手が全く入っていない原生林を抜ける。樹の幹は太く、葉は太陽を遮るように豊かに茂っている。空気は綺麗だが、どこか人を撥ねつける張り詰めた雰囲気をかもしている。  しばらく歩くと、青い水を湛えた諏訪湖が見える。  清浄な湖だった。
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