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出産
「んんっ、あっ」
「姫様、もう少しでございますよ」
産婆の励ましに、秋月姫は最後の力をふりしぼった。
ほぎゃあっ、と赤ん坊が生まれる。双子だ。産婆はすぐにへその緒を切り、切断面を糸で結ぶ。
「美しい姫君でございますよ」
女の子二人を産湯につけながら、産婆は汗にまみれた秋月姫に嬉しそうに声をかけた。
「お願い、早く見たいわ」
秋月姫の言葉は、産後、気力体力が限界を迎えた時でも、凛とした強さがあった。
産婆はいそいそと二人の姫を白い布で包み、秋月姫の枕元に丁寧に置いた。
「可愛いわ。私の赤ちゃん」
秋月姫は二人に順にほおずりをする。二人の顔立ちはそっくりであった。見間違えるものが出そうである。
「姫様、いつまで洞窟にいらっしゃるご予定で」
血は穢れの象徴であった。秋月姫は出産のため洞窟にこもっていた。
「お乳を与える時までね。この子たちは、神話の時代を終わらせる宿命にあります」
当代最高の巫女である秋月姫は厳然と話した。
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