74人が本棚に入れています
本棚に追加
玲奈の一言で飲み会はお開きになり、「じゃあまたねー」とそれぞれが夜の街に散っていく。せっかく2年ぶりに集まったというのにみんなそっけないものだ。
私たちの地元はかなりの田舎で、みんなが『街』と呼んでいる駅周辺のこの一帯も普段の人通りはまばらだ。今夜は盆休み中とあって多少は人出があるようだが、人の姿を見つけるには少し視線を遠ざける必要がある。
私が住む実家方面は既にこの時間のバスは通っておらず、仕方なくアーケード脇に停車している一台のタクシーに向かった。
「待って千尋ちゃん、一緒に乗っていい?」
呼び止められて後ろを振り向くと、理緒がメガネの位置を直しながら小走りで向かってきた。そういえば、さっきの近況報告で理緒は最近実家を出たと言っていた。今住んでいるアパートが私の家と同じ方向なのだろう。
「アパートこっち方面だっけ?」
「うん。私は途中で降りるよ」
一番近いタクシーに2人で乗り込み、理緒が運転手に行き先を告げる。どうやら理緒は私の実家の隣町に引っ越したようだ。
「千尋ちゃん、今日は幹事ありがとね。楽しかったよ」
「良かった。またみんなで集まろうね」
「うん。……ところでさっきの質問なんだけど」
「質問? ……ってどれ?」
「ラーメンが何とか」
「あぁ、あれはテキトーに話題振っただけだよ。ほんとに深い意味はなくて」
すると、何故か理緒は黙り込み、口元で何かモゴモゴ言い始めた。これは理緒の高校時代からの癖だ。今は滅多に見ることはなくなったが、何かの拍子にこの癖が出ることがある。
最初のコメントを投稿しよう!