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Ⅱユキの章【追憶】
『お前の声が聞こえたら、飛んで行って抱いてやったのに、…――――』
散々注いだのにまだ足りなくて、ユキは屈強な身体でリンを押さえ込んだまま、リンの中、奥深くに吐精した。
小さな身体をはち切れそうにユキでいっぱいにして、見せつけるようにねじ込まれたユキのものをきつく締め付けながら、またリンの中が快感に震える。
「ふ、…っ、…はっ、……ぁ――――、…っ」
声にならない声を上げて絶頂にわななくリンをユキは優しく揺らした。
狂おしいほどの愛しさが溢れて、とっくに限界を超えているリンの奥にまた腰を進めてしまう。
目も手も舌も。
ユキの持てる全てでリンを愛でる。
リンの声が聞こえない。
長い年月を隔てて再会したリンは、声をなくし、記憶もなくしていた。
「リン、もっと、…」
「ん、…っ、ふ、…ぁ、…―――っ」
リンの声が聞けるのは、ユキに貫かれて恍惚に喘いでいる時だけだ。
それはユキだけの特権だと思えば悪くはないが。あんなに、…
『ユキ。きらいってゆってごめんね』
くるくると表情を変えて、鈴のように可愛い声を鳴り響かせていたのに。
帝都に大雪が降った満月の夜。
まだ幼かったユキは、仲間の灰色人狼たちと共に初めて人間の住む街にやってきた。
仲間たちは好き勝手に獲物を見つけ、襲い、凌辱し、喰らって捨てる。
あちこちに散らばった人間の残骸が雪を赤く染めていた。
ユキはそれを少し離れたところから見るともなく見ていた。
喧騒をものともせず、静かに降り積もる雪がきれいで。不思議で。ユキの首に雪の結晶のチョーカーを着けてくれた母親は人間で、群れを率いる人狼のボスである父親が、彼女を見つけ出したのだという。
人間と愛し合う、…?
愚かで傲慢で貪欲。弱くてちっぽけなくせに仲間同士殺し合う。ただ人狼の欲求を満たすための餌に過ぎない彼らと?
まるで想像できない。
白い毛に降り積もる雪の感触を楽しんでいたユキは、先ほど仲間が襲った人間の残骸に、白いフードを被った小さな女の子が転がるようにすがりついて泣きだしたのに気がついた。
泣き叫ぶ女の子のまつ毛に雪が落ちて。
はだけたフードからのぞく栗色の髪に雪が積もって。
瞬く琥珀色の瞳から零れ落ちる涙が結晶のように光って。
それがひどくきれいに思えて立ち尽くしていたら、小さな雪の玉が飛んできた。
「あっちいけ、ひとごろし」
力が弱すぎて全然当たらないし、当たったとしても全く痛くなさそうな。柔らかくつかんだだけの雪の玉。
「ハイイロなんてきらいっ。きらいっ。うわあああ――――んっ、…―――」
女の子は小さな腕をいっぱいに振り回して、手当たり次第に雪玉を作っては投げていた。
怒りと悲しみで顔をぐちゃぐちゃにして、喚きながら必死で投げた雪玉の一つが、ユキの顔に当たった。
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