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Ⅲリンの章【慈愛】
どうしよう。
寝ても醒めてもユキと繋がっている。
リンの焼け焦げてボロボロに擦り切れた衣服は丁寧に脱がされ、代わりに滑らかで肌触りの良い柔らかい衣服を着せられた。それでも、その衣服より心地よいユキの毛並みを纏っている時の方が多い。
「まだだ。足りない、…」
夜の街を跳んで、森の奥深くにある狼たちの居城にリンを連れて来たユキは、怖いくらい優しくリンを溶かした。
醜い傷痕も痛々しい火傷もユキは慈しむように丁寧に舐めた。
ユキの滑らかで優しい舌が触れると、全身に焼き付けられた苦痛が嘘みたいに引いていった。暴風で荒れた海が凪いでいくように、静かに穏やかに痛みが鎮まる。実際に、裂けた皮膚や腫れた痣が修復され、瑞々しく蘇っていった。
すごい、…
それはとても心地よく穏やかで、うっとりするような快感を伴う。リンは自然と吐息を漏らしながら、ユキに身体を差し出した。乾いてひび割れた大地に慈雨が降るように、ボロボロに壊されたリンの身体にユキの治癒が浸透していく。
「飲め」
透明で少しとろみのある液体が入った椀を口元にあてがわれたが、長い間ろくにものを食べられず、水も飲めなかったリンは、それをうまく飲み込むことが出来なかった。
「ゆっくりな」
むせるリンを優しく撫でると、ユキはリンの口に舌を差し込み、口移しでそれを飲ませてくれた。少しずつ、少しずつ、リンの中に入っていく。薬湯のようなものではないかと思うが、ほんのり甘く優しい味がする。喉を通って身体を巡り、お腹に落ちると、じんわりとした温かさが全身に広がっていった。
とろりとした眠気が訪れた。
ぼんやりとユキを見上げると、ユキは安心させるようにリンの瞼を舐めた。
「大丈夫。ここにいる」
まっさらな肌をユキの柔らかくて温かい毛並みにすっぽりと包まれて、リンは安堵の眠りに落ちた。恐怖や苦痛のない、静かで穏やかな眠り。肌をくすぐるユキの滑らかな毛の感触と、繰り返される心臓の音。足のつま先まで温かく、安心に満ちていて、リンは溶け落ちるように心地よく深い眠りについた。
目を覚ますと、本当にユキはそこにいた。
眠る前と変わらずすっぽりリンを包み込んで、優しく瞼を舐めた。
「もう少し寝ろ」
ユキはまた、甘く優しい味の薬湯をリンに飲ませた。
ユキの舌が戯れるようにリンの口内を巡り、上顎を撫でたり歯列をなぞったり舌先を絡めたりする。
「ふ、…――、っ」
甘美な痺れが全身を駆け巡って、リンは思わず吐息を漏らした。甘い熱が湧き起こってユキにしがみつく。ユキは満足そうに目を細め、大きな手でリンをしっかり抱きしめたまま頭を撫でて、耳を撫でて、重ね合わせた唇をついばんだ。
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