第一話 *

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 店内は落ち着いた雰囲気……というか、病院の待合室のようで、なんだか意外だった。  なんとなくだが、もっとお洒落なサロンのようなイメージをしていたから。 「病院みたいですね」 「ええ。元々は父親が経営していた整骨院だったんですよ。その時の設備や雰囲気を結構そのままにしています」 「なるほど……」  そのまま中の通路を進み、『施術室』と書かれた部屋の扉を開けて中へと案内される。茶色くて独特な形のベッドがあり、そこに座るよう促された。  これ、あれだ……マッサージもののAVとかでみるやつ……って違う違う! なに失礼なこと考えてるんだ。 「ここに座って、楽にしていて下さいね」 「はい。えっと、すみません……。ありがとうございます」 「いえいえ。横になっていた方が楽だったら、横になっても構いませんからね」 「はい」  彼は「直ぐに戻ります」と言い残して、扉の外へと出て行く。その扉がパタンと閉じたのを見届けてから、辺りを見まわした。  なるほど……元々整骨院だった頃からあったのであろう、古びた掲示物などがチラホラと見受けられる。もしも此処がお洒落過ぎる内装だったら、逆に気後れして気分が落ち着かなかったかもしれない。  なんだか子供の頃に通っていた耳鼻科に似たような雰囲気に、ほっと息を吐き出した。落ち着いたら、今度はだんだんと眠くなってきたな……。  かろうじてシャワーだけは浴びていたものの、ここ二、三日は殆ど飲まず食わずで仕事をしていたことを思い出す。そりゃあ体調も崩すよな……。  自業自得といえばそれまでだけれど、周りの人達だって俺が押しに弱いのを知っていて、色々仕事押しつけてくるんだよ……。勇気を持って断ってみても、『独身で一人暮らしの働き盛りな男が何を言っているんだ』とか言われてしまうし、それに対する返しだって色々考えているのに、いざとなると口から出て来ないし……。  何かがさらりと頬を撫でる感触で目が覚めた。あれ? 俺、いつの間に寝ていたんだろう……。 「あぁ、起こしてしまいましたか」  ぼんやりとした視界の中で、整った顔立ちの男が俺の顔を覗き込んでいる。 「髪の毛が顔にかかっていたので、つい」 「いえ、俺の方こそすみません! い、いつの間に寝てたんだろ……」  慌てて身体を起こし、髪を手櫛で適当に整えた。 「お疲れなんですね……。あの、ココアを入れてきたので、良かったら飲んでください」  目の前に差し出されたのは、ほかほかと湯気のたつマグカップ。ふわりと甘い香りも漂って、俺は誘われるままにマグカップを両手で受け取った。 「あったかい……」 「ええ。まだ熱いかも。少し冷ましてから飲んでくださいね」 「あ、はい」  ふうふうと息を吹きかけていると、脇から視線を感じた。 「あの……?」 「はい?」 「どうかしましたか」 「ああ、すみません。姿勢が気になってしまって」 「姿勢、ですか?」 「ええ。その巻き肩……癖になっていそうだなと。巻き肩は肺が圧迫されて苦しくなるので心配で……」  姿勢の悪さは昔からだったが、確かに今の仕事になってから更に悪化しているような気がする。 「それが飲み終わったら、少し身体を触らせて頂いても良いですか?」 「えっ?」  するりと肩を撫でられて、思わず身体がはねた。幸いにもマグカップの中身は零れずに済んだが、予想外の言葉に戸惑ってしまう。 「職業病といいますか……気付いた以上は放っておけないというか……。今軽く触っただけでも大分酷いですよ、これ。よく動けていますね……。頭痛とかしないですか?」 「し、します……」 「でしょうね。他の原因もあるかもしれませんが、おそらくこの凝りが原因で頭痛を引き起こしていることもあると思います」 「そうなんですね」 「はい。正直もう今すぐにでも揉み解したいので、それ、飲んじゃってくださいね。あっ、いや、急がなくて大丈夫ですけど」  急がなくても大丈夫とは言いながらも、彼の手は俺の首や肩に触れてくる。俺は擽るような触診の刺激に震えそうになりながら、なんとかココアを零さずに飲むのに必死で、美味しそうだと思ったはずのココアの味もよく分からないままに飲み込んでいく。  そういえば、先程まで自分のことに必死であまり良く見ていなかったけれど、この人……とんでもない美形だ。いや、本当にこのレベルの美形ならば、雑誌やテレビに出ていてもおかしくない。そう思うと、普段関わりのない人種に余計緊張してしまった。 「あの、ごちそうさまでした」 「おそまつさまでした。では早速ですが、簡単に問診させて下さい」  俺の手からさり気ない動作でマグカップを掬い取って、そのままサイドテーブルのような場所にマグカップを置くと、スムーズに問診へと移行した。いくつかの質問に答えると、彼の手は俺の身体に再び触れて「ここは痛い?」「これくらいの強さで痛くない?」と色々と確認してくる。 「じゃあ、これから施術を始めていきますね。ネクタイは外して貰って、ワイシャツのボタンも上から二個くらい外して欲しいんだけど……施術着使いますか?」 「いえ、大丈夫です!」  施術着を借りるということは、それを洗って貰う必要もある訳で、そんなの申し訳なさ過ぎる。ただでさえアレコレと良くして貰っているのに、これ以上世話になる訳にはいかない。俺は立ち上がって急いでネクタイを外し、鞄を置かせて貰っている荷物置きへと一緒に置いた。 「あと腕のところのボタンも外して下さいね」 「はい」 「そうだ、申し遅れました。私、司波と申します。よろしくお願いします」 「あ、どうも。相馬です。お世話になります」  ペコリとお辞儀をして司波さんを見ると、「では、どうぞこちらへ」と先程まで座っていたベッドへと再び案内されたので、そっとベッドに腰かける。 「では、そのままうつ伏せになって頂けますか。もしうつ伏せが辛かったら、横向きでも構いません」 「えっと、たぶん大丈夫です。うつ伏せ、出来ます」  ゆっくりとベッドへうつ伏せになると、ファサッとタオルが掛けられた。 「肩甲骨が周りの筋肉に癒着して動かなくなってしまっているみたいですね。初めから指圧だと痛そうなので、軽く肩甲骨剥がしから行います」 「は、はい」 「右腕はベッドの外に出して楽にしてください。左腕は後ろに回しますね。ちょっと失礼します」  温かい手が俺の左腕に触れてきた。そのまま手首と二の腕を支えられ、後ろ手で腰に手を当てる感じでL字に曲げるよう誘導される。そして浮いている肘の下に、分厚い太腿が挟まれた。  す、すげえ。同じ男なのに、本当に俺の身体とは全然違うんだな……。いや、なんかもう、ここまでくると比べるのも失礼なのかもしれないが。 「じゃあ、動かしますね」 「はい」  左肩に手が置かれて、もう片方で左肘を掴まれた状態で、上から下にゆさゆさと揺すられる。 「深呼吸して、力を抜いてください」 「ん、はい」 「痛くないですか?」 「うぅ、はい。気持ち、いいです……ッ」 「なるべく呼吸は止めないで。大きく吸ってー、ゆーっくり吐いてー」  司波さんの声に合わせて、なるべくゆっくりと呼吸を繰り返す。 「そうです。上手ですよ。そのまま止めずに繰り返していてくださいね」 「ッ、はい」  そのまま二、三分ほど揺すられていただろうか……。とある変化に気が付いた。 『なんか……ち、乳首が擦れて、ちょっと痛いかも……?』  シャツに擦れているだけではなく、施術台に乳首の先端が付いたり離れたりを繰り返している。そのうえ血の巡りも良くなって、尚更感覚が鋭くなっているのかもしれない。 「もし痛かったりしたら、遠慮なく教えて下さいね」 「あっ、はい!」  ……これは、申告するべき痛みに入るのだろうか?  いやいや、でも流石に恥ずかしい。「乳首が擦れて痛いです」だなんて、初対面の人に言えるわけが無い。いや、初対面じゃなくても言えないか……。そう思うのに、司波さんはまだ丁寧に解してくれている。  ああ、どうしよう。意識し始めたら余計に気になってきてしまった……。 「ん、ンっ」  ゆさゆさという上下に揺すられるような動きに合わせてワイシャツが引っ張られて、緩まって、また引っ張られて……その度に乳首の先端がスリスリと刺激される。 「うぅ、や、あ」 「……深呼吸、忘れないでしてくださいね」 「あっ、ごめんなさ」 「大丈夫ですよ。慣れていきましょうね」 「あ、はいっ、うぅ……」 「吸ってー」  司波さんの言葉に合わせて息を深く吸い込んでいくと、空気が入った肺が膨らんで、胸も前へと反ってしまう。その無防備な胸に刺激が加わって、息が詰まって身体もビクリとはねた。 「……吐いてー」 「ふぅーーー、っん、う」  力の抜けた状態での身体への刺激にも弱く、上手く深呼吸が続かない。半泣きになりながらも、なんとか誤魔化して深呼吸もどきを続けた。 「……では、少し動きを変えますね」  肩とベッドの間に司波さんの握り拳が差し込まれて、もう片方の手は背面の首の付け根辺りに添えられた。触れられている辺りがぽかぽかと温かくて、司波さんの手の熱さに驚く。 「では動かします」  合図の後、先程よりもゆさゆさと大きく身体を揺すられる。 「んっ!?」 「深呼吸」 「うぅ、はい。……スゥーーー」  背中側の手が強めに擦るような動きで揉み解してくれる。ぎゅっと押されると、散々擦られて腫れてしまったであろう胸がグリグリとベッドに潰されて、思わず喘ぎ声が漏れて涙が滲んだ。 「ハァーー、あッ、……うぅーー」  不意に、吐息のような笑い声が聞こえた。 「あ、ごめんなさい。だって、なんか深呼吸じゃなくて唸ってるみたいで。悪い事してる気分になってくるな」 「ご、めんなさ……」 「痛くは無いんですよね?」 「はい、きもちいい……です」 「なら良かった。でもなるべく呼吸は意識してて」  時折肩を回すような動きに戻ったりしつつも、新しく肩を揉む動きが加わった。 「あっ、あ、きもちい」  胸の刺激とは違う、純粋な心地よさに声が漏れる。緊張の緩んだ身体。不意に首筋を掠った司波さんの指にまた身体がハネる。 「んんっ」 「本当に敏感……いえ、くすぐったがりなんですね」 「すみません……」 「いえ。案外皆さん声が漏れてしまうものですから。相馬さんもあまり気にしなくて大丈夫ですよ」 「そうですか……?」 「ええ」  そうは言っても、漏れる声はほぼほぼ喘ぎ声だ。他の人も、こんな声が出てしまうものなのだろうか……? 「肩の方、重点的に解しますね」 「あ、はい。お願いします」  司波さんの手の四本の指が肩に適度な圧を掛けながらグッグッグッとリズミカルに押してくる。 「んっ、んっ、んっ」 「相馬さん、息」 「んあぁ、うぅ……スゥーーー、ン、んんッ…!」  耳元に熱い吐息を感じて肩を竦めたが、その肩を司波さんの指が押し戻す。グッグッと断続的に圧を掛けられると、揺れた振動が胸だけではなく途中から熱を持ち始めていた下半身にまで響く。ど、どうしよう……! 勃ってきちゃった……! 「じゃあ今度は反対側を解していきます」 「は、はい」  そっか、良かった。まだ反対側があるんだ。今身体を起こしたら勃ってるのバレちゃうところだったし、危なかった……。なんて、そう安心したのも束の間で、すっかり立ち上がって熟れ始めた両方の乳首と股間は、僅かな刺激すらも拾ってしまう。  これでは治まるどころか悪化する一方で、口から一筋の涎が垂れた。歯を食いしばってどうにかしたいのに、呼吸を止めると怒られる。 「…! ふぁッ、や、……ぁ、フゥ――――ッ、んぅ…、っ!」  もう思い切り触って欲しい。……って、いやいや駄目だろ。なに考えてるんだ俺。どうにか耐えようともぞもぞと足を擦り合わせるも、それすらも快楽を助長する。 「あ、もしかして、お手洗い行きたいですか?」 「えっ!? あ、はい!」 「気付かなくてすみません。待合室の……」 「分かりました!」  勃起に気付かれないようにと素早く部屋から飛び出した。
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