いつか会える日まで、、、、

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えっ、、、! その知らせに思わず絶句した。 高校の時、吹奏楽部で一緒だった2つ下の後輩からの 電話だった。 「高橋さんが自殺しました、、、、」 高橋とは、僕が高校の時付き合っていた名前だ。 「そう」 「2か月前、葬式行きました」 「はあ、何で教えてくれないの❔」 部長だった僕は、声を荒らげ言った。 「だって、先輩ショック受けると思ったから、、」 「そうか、、、、」 2人の間に、電話のノイズ音だけが流れ、僕は何も 言えず、電話を切った。 「何で、、、、」 「まだ28才だぞ」 「何があった、、」 電話を切ると、しばらく放心状態になり、 この台詞が、繰り返し頭を駆け抜けた。 僕は、何をしていたんだろう。 彼女のことは、後輩から 「医者と結婚した」と聞いていた。 嫌な予感はしてたんだ。 僕は、病院に10年勤めていたから。 ずっと後悔していた。 何年も、、、、、、 それは、僕の悪いクセ。 ——————————————————— 人を好きになれなかった。 子供の頃から。 自然と人に「距離」を取っていた。 それなりに上手く、人と付き合って友達もいた。 だが、何でも話せる「親友」は1人もいなかった。 いや、親にさえ「本音」は話さなかったから。 他人に「自分の悩み」を相談できる筈がなかった。 「なんかほしい物ないの?」 「大丈夫」 「今日何食べたい❓」 「何でもいいよ」 父が単身赴任しており、母と二人暮らしだった僕は、 いつも、母に遠慮していた。 母は「精一杯の愛情」をくれたのに、、、、 小学生の時は、虫を観察した。 虫は面白い。歩くスピード、飛ぶ速度、飽きなかった。 中でも「カブトムシ」をとりに良く、友達と出掛けた。 ボクの生まれた町は、人間より牛の方が数が多く、 信号が、2つしかない、そんな田舎だった。 だから、夜道を歩くと「カブトムシ」や「クワガタ」 が歩いている。 令和の今なら、「カブトムシ」をネットで売れば、 小学生はみんな大金持ちになっていただろう。 とにかく、そんな田舎がボクは好きだった。 人間よりも、圧倒的な自然に囲まれていたから、、、、 ————————————————————————- 高橋さんと出会ったのは、高校3年生の時。 ブラバンで、新入生として入部してきた。 楽器は、「フルート」 美人にはピッタリの楽器だ。 はじめは、「かわいいな」そう思った。 もっとも、「それ以上の感情」を持つ事はなかったが、 彼女が入部して、3ヶ月が過ぎた。 少しだけ会話する事があった。 吹奏楽部は、少しだけ名門で、部員数が100人以上いた。だから部長の僕も「名字」を覚えるのに、2ヶ月かかった。 彼女は控えめで、あまり自分から多くを話すタイプではない。でも僕の前だと少し無理をして、頑張って話しているのがわかった。 「僕に気があるのかな❓」 「いや、そんな事ないよな」 そう、軽く考えていた。 なぜなら、僕は入学してから、上級生、同級生、下級生合わせて10人に告白されていたから、、、、 全部、お断りしたけど。 告白されたるのは、「嫌だった」 「好きだ」という想いを、ぶつけられるのは辛い。 「僕のどこがいいの❓」 「どうして❓」 「何も知らないくせに」 いつも、そう思っていた。 だから、相手の気持ちを受け止める事が出来なかったんだ。そんな大きな「好き」は荷が重いから。 高橋さんに告白されたのは、ブラバンのコンクールを1ヶ月前に控えた頃だった。 この頃になると、顧問の先生もナーバスになり、部員の中にも人間関係で亀裂が入っていた。 だから、部長だった僕は副部長などと、毎日夜にミーティングを開き、精神的にクタクタだった。 「何でこんな事しなきゃいけないんだ」 「先生がやることだろ」 「これは、仕事なのか?」 「お金がもらえるのかな❓」 あまりの、過酷さに、そう思っていた。 そんな時、彼女から 「好きです、付き合って下さい」 僕より、10cm以上低い目線から、真っ直ぐに目を見て言われた。 「ごめんね」 そう、言うつもりだった。 だけど、彼女の見た事がない、澄んだ目に吸い寄せられ、「いいよ」、、、、そう言った。 後悔はしていない。 ただ、上手く付き合っていく自信は無かった、、、、 高橋さんのせいではなく、ボクに問題があるから。 —————————————————————————— 彼女との付き合いが始まっても、僕の気持ちは変わらなかった。 いや、彼女がどうこうではない、僕は誰に対しても 「好き」という感情がなかったから。 当然の様に、部活が終わり、玄関で待っている彼女を 無視し、後輩と遊びに行った。 ある日、下駄箱に手紙が入っていた。 「先輩なんで、帰ってしまうんですか、、」 全くその通りだと思う。 本当にすまない、、、、 それでも、時々休みの日にデートをした。 自宅にも一度だけ、呼んで映画をみた。 この時は、親にひどく揶揄われた。 両親は、僕が女性にあまり興味がないと、思っていたから。 「どこで遊んだんだ❓」 「いつから付き合っるの❓」 「年下かい❓」 夕食の時、質問攻めにあった。 ただ、両親は少し嬉しそうに見えた。 その2日後に、高橋さんの親が、どこで勤めていて、母親がどこでパートしているか❓ 僕が知らない情報を「母親」は調べ上げていた。 これが、田舎の良さであり、恐ろしい所でもある。 それからは、なぜか彼女が邪魔に思えた。 いつも、付きまとわれている気がした。 高校生のカップルなら、おそらく「当たり前」だろう。 でも、僕は人前でイチャイチャする事が出来なかった。 いや、それはきっと言い訳だ。 単純に誰にも縛られたくなかった。 そんな付き合いが続き、2人はいわゆる「自然消滅」の 形になった。 そう、それで高橋さんとの短い付き合いは、終わったんだ。 ——————————————————————————- 僕は、28歳で結婚し不動産会社に勤めている。 子供もできて、何不自由ない生活を送っていた。 そんなある日だった、、、、、、 後輩からの電話で、彼女が自殺したのを知った。 一瞬で、目の前が真っ暗になった。 医師と結婚した、というのは後輩から聞いていた。 それが、なぜ❓ 高校生の記憶が蘇り、携帯電話を持ったまま、しばらく動けない。 なぜか、彼女の寂しげな表情が頭に浮かんだ。 「そうだ、俺は彼女を傷つけた」 「バカにした」 「もて遊んだんだ」 無意識に、自分の頭で言葉が浮かんだ。 、、、、今さら、「当たり前」の事に気がついた。 僕は、彼女に何をしてあげただろう。 少しでも、「好き」と言ってくれた気持ちに応えられたのだろうか? 戻りたい。あの時に。 僕なら、彼女を死なせやしない、、、、 自己満足だろうか、 自分勝手というやつか? 僕は、彼女の死を知ってから、しばらく頭に「彼女の顔」が離れなかった。 たかが、高校生の付き合い。 そう、言ってしまえば、楽になる。 だけど、何かが違った。 1ヶ月が過ぎ、ようやく今何を考えても、 何も変わらない事に気がついた。 そして、その事もまるで通り過ぎた風の様に、記憶から 消えていった。 一年が過ぎ、完全に僕の記憶からは、消え去っていた。 そんなある日、彼女の夢を見た。 彼女は笑っていた。 「先輩頑張って」 「また、デートしてね」 「もう、逃さないから」 僕の記憶にある、彼女とは全く違う表情だった。 夢から覚めると、不思議な感覚になった。 「どっちが夢で、どっちが現実か、、、、」 今でも、それはわからない。 ただはっきりしているのは、彼女に会える日が来るという事。 そして彼女が、僕を応援している、という事実。 だから、僕はその日まで、懸命に生きなければならない。 彼女に会った時、「かっこいい先輩」でいたいから。 僕は、彼女の分まで生きる。 かっこいい大人として。
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