運命をひねった二人。

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 1  雲の霞む空から、瞳に毛布を被せるような、温かで柔らかな陽が差していた。その光を目一杯に受け取ろうと腕を伸ばす桜の下、小さな庭に置かれた白い丸テーブルにはまだらな陰影が描かれている。  そこに今、五人の老齢な男女が集っていた。  人生経験を脳に積み、しかし実ったその重さに耐えきれずまるで稲穂のようになった彼らの中にあって、男──海堂武尊(かいどうたける)の体付きは未だ出穂と形容することができた。  若かりし頃の肉体は完全な衰えを見せてはいない。  とはいえ、歳相応のガタは認めざるを得まい。海堂は清新な空気を肺に満たそうとするたび、脳裏に水一滴ぶんの苦味を滲ませるのだった。  この先、何度となくかつての栄光とのギャップを味わうのだろう。  海堂は右手に乗せたひと組のトランプデッキを掲げ、逸れかけた意識をショーの続きへ刷り直した。 「──それでは只今より、あなたが選んだカードをトップへ移動させます……」  海堂の、細い枝に筋肉を纏わせただけの指が鳴らされる。すると次の瞬間、デッキに変化が訪れた。それまで平面だったトップの一枚が、くっと山型に隆起したのである。海堂はそれを優しい手つきで裏返し、表れたマークを示した。
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