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「ふうん。そういや、オレがむかし出逢ったヤツも手品に勤しんでいたな」
ヤツ、のイントネーションに含みがあった。海堂は眉を顰める。
事実なのか、話を合わせているだけなのか。ネズミ男は続けた。
「そいつはまあ、オレと腐れ縁だったような気がするんだが……すっかり印象が薄くなっちまっててな。ははっ。ちなみにお前さん、名前は? オレは甲斐っていうんだが」
甲斐という名に聞き覚えはなかったが、海堂は取り留めて気にしなかった。「……俺は海堂だ」
なぜなら海堂自身も偽名を使っているからだった。現役を退く際、自らの手で数十年連れ添ったアイデンティティを殺したのだ。それにより、奴からの追跡を逃れることに成功していたのだが……。
男、甲斐は海堂の頭から爪先までじっと観察した後、一度首を傾げてから肩をすくめた。何かを悟ったと思しきその反応に海堂は唾を呑んだ。
「……ともあれ、お前さんがやっていたクロースアップマジックも、ヤツの十八番だった。タネはこういうやつだろう? お客にカードを選んでもらってから──」
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