運命をひねった二人。

5/20
前へ
/20ページ
次へ
「ふうん。そういや、オレがむかし出逢ったも手品に勤しんでいたな」  ヤツ、のイントネーションに含みがあった。海堂は眉を顰める。  事実なのか、話を合わせているだけなのか。ネズミ男は続けた。 「そいつはまあ、オレと腐れ縁だったような気がするんだが……すっかり印象が薄くなっちまっててな。ははっ。ちなみにお前さん、名前は? オレは甲斐(かい)っていうんだが」  甲斐という名に聞き覚えはなかったが、海堂は取り留めて気にしなかった。「……俺は海堂だ」  なぜなら使だった。現役を退く際、自らの手で数十年連れ添ったアイデンティティを殺したのだ。それにより、からの追跡を逃れることに成功していたのだが……。  男、甲斐は海堂の頭から爪先までじっと観察した後、一度首を傾げてから肩をすくめた。何かを悟ったと思しきその反応に海堂は唾を呑んだ。 「……ともあれ、お前さんがやっていたクロースアップマジックも、ヤツの十八番(おはこ)だった。タネはこういうやつだろう? お客にカードを選んでもらってから──」
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加