運命をひねった二人。

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「あんたの相手は顔が強張っていたのか。……ふむ。その言葉、そっくりそのまま奴に伝えてやりたいね。表面上はなんてことないフリをしていたが、内心じゃあ怯えていたのがすぐにわかったんだから」 「へえ?」髭を忙しく伸ばす甲斐の声も突っ張った。「ヤツの場合、そんな所まで見透かす洞察は備わっていなかった。所詮は子供騙しで食っていたからな。人心なぞ読めたのかどうか」 「子供騙し?」  海堂の脳裏に、栄光の軌跡が流れていく。現役だった頃は、誰にも侵されてはならない強固な自尊心が壁となって己を護っていた。、いつ何時も、最高のトリックを求めてはその披露を止めなかった。  いつか「探偵の敗北」という宝を手に入れるために。  だのにその労力を子供騙しと評されたのではたまったものではない。海堂は男をひと睨みした。  先程から、この男こそが宿敵なのではないか。という疑惑が芽生えていた。  ところが、どうにも断言することができない。記憶は明瞭になりそうで、しかし手を伸ばせばすぐさま離れて行ってしまう。探偵なのかもしれない、と表現するしかない正体不明な男の嘲弄に、海堂はさりげなく拳を固めた。
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