運命をひねった二人。

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「どんなボロがあったんだろうな。そこは気になるが、話を変えようじゃないか」これ以上は手前を無駄に貶めるだけになると思った。海堂は、人差し指でこめかみを小突く。「アンタがどうかは知らないが、実のところ、近頃物忘れの激しくなった俺が奴のことを思い出せているのは不思議な気分でよ。色々理由を探ってみたんだが……よほど憎たらしかったのかもしれん。あんたはどうだ」 「気持ちはわかる。なんせヤツは、オレの前に何度も壁となって現れやがったからなあ。忘れたくとも深層意識にすっかり刷り込まれちまって忘れられないのさ」 「…………」 「それに心の一部ではな、ただ憎いだけのヤツではなかったんだとオレは思っている」  ざわりと、目に見えない掌が桜を撫でた。意表を突かれた海堂の瞳が大きくなる。  甲斐は、薄い唇に純粋で柔らかな笑みを湛えていた。そこにあったのは、手の焼ける相手だと理解しつつも放って置けない、放っておくことに何故だから躊躇いが生じてしまう、そんな生意気な抗えなさだった。  あの探偵が海堂にとって目障りだったのは間違いない。何度も敗北を味合わせたくてトリックを仕向けていたくらいには。  ただ──海堂は今更ながら自己矛盾に気付いた。
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