猛暑の思い出

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エアコンの効いた部屋の中、一人涼んでいるとスマホの通知に気が付いた 「エアコンが壊れた!すぐに来てくれ!」 友人からだ。その無遠慮な内容に思わず舌打ちが漏れる こいつは兎に角暑さに弱い。北国の出身だからと本人は言うが正直異常なくらいだ。 少なくとも真夏にこいつが外に出た姿を見たことは無い、いつも冷房をキンキンに効かせた部屋でアイスをかじり「こんな暑いと溶けちまう!」とガハハと笑う はぁ、思わず漏れるため息。まあ仕方ない、あんなやつでも数少ない友人の一人だ。 工具箱を手に取り家を出る。酒代くらいは取れるだろう。そう思いながら 「おーい、生きてるか?」 ドアを開けると同時に漏れてくる熱気。返事はなく、家主は留守のようだ。 「たく、呼び出しといて」 ぶつぶつと文句を言いながら部屋に上がる。まず目に入るのは転がったゴミ袋やら、脱ぎ散らかした服たち。相変わらずきたねぇ部屋そんなことを思いながら転がるゴミ袋を足で転がす。 お目当てのエアコンは部屋のど真ん中にある。中を見ると、なんだヒューズが飛んでいるだけじゃないか。手持ちの道具で修理をすると無事エアコンは冷風を吹き出してくれる 「修理終わったぞ」そうスマホにメッセージを打つものの返事はない。 仕方ない、そのうち帰ってくるだろう。これもついでにと部屋に散らばったゴミ袋を開きっぱなしの冷蔵庫の扉を閉め、ちらばった衣服を洗濯機に突っ込み、溜まりっぱなしの風呂の水を抜く。 次にあったら奢ってもらうからな。帰ってこない宿主にしびれを切らし友人の部屋を出た。 そうしてそのまま友人は行方不明となった。 スマホからメッセージが返ってくることはなく、四方八方を探しても影さえも掴むことが出来ない。やがて捜索は打ち切られ、話題に上る事すら少なくなった。 だが私は今でも思い出すのだ。夏の盛り、冷房の効いた部屋でアイスを片手にガハハと笑う奴の姿を 「こんなに暑いと溶けちまう!」そう口癖のように呟いていた奴の言葉を
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