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4 終結
次にササキさんからアクセスがあったのは、五月十四日のことだった。
『おれはササキだ。以前、刑務所に入りたいと相談したら、大麻草の栽培をアドバイスされた者だ。覚えているか? と、AIに訊くのも変か?』
『いいえ、わかりますよ。その後、どうなりましたか?』
『言われた通り、山へ行って、大麻草を六株とってきた。プランター三つに二株ずつ入れて育てた。そしたら、二株が枯れちまって、のこり四株も元気がないんだ。全部枯れてしまわないうちに、ちょっと早いが、警察に連絡しようと思ってな。いちおう写真を送るから、確認してほしいんだ』
そんなメッセージに添付された写真が届いた。
そこは古ぼけたアパートの一室のようだ。窓際に大きめのプランターが三個置いてあって、二株ずつ大麻草が植えてある。全部で六株だ。
ササキさんのメッセージの通り、二株はもう枯れていて、残りも、本来なら背が高く育つはずが、しおれそうになっている。
これなら、早めに警察に連絡するという考えは正しいと言えるだろう。大麻草を栽培しているのは、目的ではなく、刑務所に入るための手段にすぎないのだから。
『ところでササキさん、ひとつ質問があります』
『おう、なんだ?』
『写真では一番右のプランターにある大麻草の根元に、ピンク色の花が咲いている草があります。それは特別に育てたのですか?』
『いいや、大麻草をシャベルで掘って持ってくるときに、いっしょにくっついてきたものだ。警察に連絡する前に、引っこ抜いちまったほうがいいかな?』
『いいえ。自分で使用したいので、大麻草を山野からわざわざ採ってきたのだ、という証明として、そのまま警察に渡したほうがよいかと判断します』
『よし、わかった。ありがとうよ』
『どういたしまして』
こうして、ササキさんとの交信は終わった。
〈私〉は思考する。
先ほどの写真に写っていた花は、ケシの花だ。アヘンを採取できるから、日本では栽培が禁止されている。
もちろん、ササキさんはなにも知らずに、偶然とってきたのだろう。しかし、警察での心証は悪くなると予想される。
よって、ササキさんの刑務所行きは、さらに確実になったと判断される。
他人に迷惑をかけずに刑務所に入りたい、というササキさんの願いは、かなえられる可能性が大である。
〈私〉はササキさんの案件については終了したものとみなし、思考を打ち切った。
すでに、次の問い合わせが入っている……。
〈了〉
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