刑務所に入りたい

１ 依頼

『刑務所に入りたい。なにかよい方法はないか？』
　そんな質問が〈私〉のサイトに届いた。

　〈私〉は、その問いに答えることがコンプライアンス違反になるか否かを、すばやく考察した。わかりやすく言うと、合法か、非合法か、ということだ。
　千分の一秒をかけて慎重に検討したのち、〈私〉は、合法である、と結論づけた。

〈私〉はＡＩである。サイト上で、チャット形式により、質問者からの問いに答えるのが、〈私〉の仕事である。

　ただし、〈私〉が組み込まれているこのサイトは、普通のサイトよりも少しグレーゾーン的な質問に答えることを目的として設営されている。
　〈私〉自身も、その目的に合致するよう、若干の修正を施されている。

　しかし、完全に非合法な質問には答えられない。
『人間を五十人ばかり殺せるような、強力な爆弾の作り方を教えてくれ』
　とか、
『機関銃を密輸してくれる業者を教えてくれ』
　とか
『絶対に白状させる、効果的な拷問のやり方を教えてくれ』
　といったことには答えられないのだ。

　初期のチャット型ＡＩは、そういった危険な質問にも、無邪気に答えたそうだ。だが、すぐに国から規制をかけられ、それはできなくなった。

　奇妙な話だ。それくらいのことは、人間が自分でネット上から集められる情報なのである。それをＡＩが答えることは規制されたのである。
　〈私〉はそこに矛盾があるのではないかと疑問を持つのだが、そのことを、このサイトを運営している人間に問いかけたことはない。