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【白雪姫】
そろそろ潮時だな、と鏡は思った。自分の力が弱り切っている。ツバメの次は身動き出来ない壁掛け鏡になってしまった。それも大した役柄ではない。自らの美しさに執念を燃やす女王の「世界で一番美しいのは誰?」という問いかけに「あなたの娘です」と答え、嫉妬に狂った女王が姫の命を狙い、姫はなんやかんやと王子に助けられる。そういう展開になるのだろう。自分はただの焚き付け役だ。
(もう彼女に会うことすら、許されないのだろうか)
ガタ、と物音がして、鏡は女王が部屋に帰って来たのだと思った。しかしそこに居たのは、世界で一番美しい女王の娘。白雪姫である。姫はコソコソと忍び足で、壁掛け鏡を取り外すと……胸に抱えて森へ逃げ込んだ!
鏡は何が起きているのかさっぱり分からず、ポカンとした顔で運ばれていくことしか出来ない。やがて走り疲れた姫が木陰に腰を下ろすと、鏡はようやくおずおず声を掛けた。
「い、一体、何をしているんだい?」
「もう、待ってるのも委ねるのも、やめるの。今度は逃がさないわ」
姫は鏡に顔を寄せ、中を覗き込む。
「ねえ……この世界で、一番わたしの事を好きなのはだあれ?」
ただ一人の幸せを願い、自分を殺し続けた。優しくて残酷な人は誰?白雪姫は懇願するような目でじっと鏡の奥の彼を見る。
「それは――私でございます」
鏡の返答に、白雪姫は満足げに微笑んだ。
これは、幼き子供達のために作られた運命。
そして、運命に翻弄された二人の結末。
「さあ、この悲劇のハッピーエンドを終わらせましょう。わたし達の物語は、わたし達で紡ぐべきだわ」
始.
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