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墓場の夢ちゃん あらすじ
①いじめられっ子Aには、お姉さんがいた。
双子のお姉さんは、去年、癌で亡くなった。
お姉さんが亡くなる前、妹のAに、大切にしていた人形を譲ってくれた。
夢ちゃんという名前を与えられた形見を、妹は大切にしていた。
夢ちゃんは、お姉さんがどこからか拾ってきた人形だった。
どこで拾ったのかと、しつこく訊いた。
「山の霊園の、ごみ捨て場」
②学級委員長のBも、真面目な性格が災いして、クラスの悪たれ共からイジメられていた。
公園で、もう死にたいと漏らすBに、Aは微笑んだ。
「イジメられても、私には相談にのってくれる相手がいるから」
「お母さん?」
「夢ちゃん。死んだお姉ちゃんの人形なの」
そう言って俯いた彼女の笑顔は、遺影のように色褪せて見えた。
(この時、Aはもう限界だった)
③翌日、公園でAが激しくイジメられているのを目撃する。
Aは持っていた人形を、カッターで切り刻まれ、彼女自身も髪の毛を引きちぎられて、ちぎった髪の毛をライターで燃やされていた。
その日の夕方、母親と銭湯に行き、床屋で髪の毛を整えてもらったAは、大好きなお母さんが彼女を励ますために拵えてくれる予定だったハンバーグの話しをしながら、笑顔を見せていた。
自宅に向かう橋の上での事だ。
「Aちゃん、負けないでね。お母さんが付いてるから」
Aは少し泣きべそをかくと笑顔を作り、強く頷いた。
母親もAの笑顔に安心したのか、気を取り直して、
(娘のために全てを投げ打っても構わない、この子を必ず守る)
そんな気持ちでいた。
ふと気付くと、後ろからついて来る足音がしない。
振り返ると、娘は欄干を跨いでいた。
一瞬、母親に視線を送ると、娘は泣き笑いのまま、川に落ちていった。
④バス見学。
Aの替わりにと、修復された夢ちゃんを、Aの母親が学校に持参した。
担任教師は渋々申し出を受け入れた。
⑤山道で、バスが落石を避けて崖下に転落。
Aをイジメていた悪たれ三人は、目の潰れた小僧、足の曲がった小僧、内臓が飛び出した小僧、と死にぞこなっていた。
運転手と担任教師、他の生徒は無事。
⑥バスを這う這うの体で抜け出した皆は、負傷した悪たれを中州に寝かした。
早く助けを呼ばなくてはいけない。
運転手と無事の生徒十五人は、崖を登って救助を求めに向かった。
担任教師と学級委員長Bの二人は、負傷した生徒に付き添う事になった。
⑦日が沈んだ。担任教師が枯れ枝を集めて焚火を灯した。
悪たれ共は、まだ生きているようで、たまに呻く。
教師が、この悪たれの人権のために、いじめを黙認していたと言い逃れ。
「たすけて…」
拉げたバスから、呼び声がする。
まだバスに取り残された生徒がいたのか。
担任教師が、暗闇の中、手探りでバスに向かった。
⑧背後で足音が聞こえた。
「先生?」
返事は無い。
人影が、ぐるぐると焚火の周囲を回る。
先生なら、返事をするはずだし、焚火を避けるような行動はおかしい。
それに、先生にしては、背丈が小さい。
熊かもしれない。しかし獣の臭いはしない。
熊だろうか、それとも他の何かだろうか。
「ふんふんふん」
影が、獣の息遣いを鳴らした。
やっぱり熊だ。
慌てて浅瀬を走って渡ると、崖をよじ登った。
三人の負傷者を見捨てて逃げたのだ。
⑨月が真上に来た頃、漸く山道の先に民家の灯りが見えた。
Bは住民に保護された。
⑩運転手に引率された生徒たちは、山道をBとは逆に進み、町へ出ていた。
明け方、救急隊が事故現場に駆けつけると、中州には誰も居なかった。
夜が明けると、対岸の雑木林の中に、三人の悪たれが首を吊っているのが発見された。
⑪担任教師は行方が分からない。
担任教師が、三人を枝に吊るして殺害したのかもしれない。
そんな噂もあった。
⑫悪たれの葬式の時、Aの母親は薄ら笑みを浮かべていた。
「あの子のお人形返してくれたの、Bちゃんでしょ?ありがとうね」
母親から、身に覚えのない感謝をされた。
事故が起こった夜、あのお人形が、Bの家の玄関先に捨てられていたという。
Aの自宅前を通る度に、窓際に置かれた人形と目が合う。
人形は、前よりも口角が吊り上がっているように見えた。
Bは通学路を変えた。
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