古傷・その後

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「元カノなの? キレイな子ね。この景色に映えてるね」 彼女が死んだ元カノとのツーショット写真を見て、目を細めて微笑んだ。 美瑛の自然の中で撮った写真には、確かに元カノがとてもキレイに写っていた。 焼きもちとは無縁の彼女は、にこにことその写真を見つめている。 「そいつに恨まれてんだぞ」 「そうなの? ふふっ」 「笑ってるなんて、余裕だな」 俺は死んでも嫉妬をぶつけてくる元カノにウンザリしていたのに。 それに、彼女になにか攻撃してこないかとも心配だった。 「だって、本当にキレイな子なんだもん。会ってみたかったな」 いや、元カノの方は会いたいと思ってねえよ、きっと。 「今もここにいるの?」 「さあ。坊さんがいるかどうか知らせてくれるって言ってたが」 だが、ここにいるのは明らかだろうと思った。 出していたはずのない写真があるのだから。 「あっ、いい匂い!」 ふいに彼女があぐらをかいている僕の頭を抱えるように鼻を近づけた。 「あれ?いつものシャンプーの香りだ。ローズ系に変えたのかと思ったのに」 「ローズ?」 男がそんな香りにするはずがない。 ローズは元カノの好きな香りだった。 シャンプーなのかヘアオイルなのか、それともパフューム系なのか。 元カノはいつもローズの香りを漂わせていた。 「……俺にはわかんねえな」 相変わらず、俺にはなにも感じない。 ローズの香りはそれほど好きではなかった。 別に元カノを思い出すからではない。 付き合っていた頃から、甘ったるいその香りを好きだと感じたことはなかった。 つまり、やはりそこにいるのは明らかだということだ。 「あのさ、しばらくの間、この部屋で会うのやめよう」 「えっ?なんで?外でしか会えないの?」 彼女が不服そうに頬を膨らませた。 すると、頭上から何かが降ってきて、彼女の目の前で大きな音をたてて割れた。 「キャッ!」 小さく悲鳴をあげて身体をうしろに引いたが、破片を飛び散らせて割れたそれは彼女には当たらなかったようだ。 「…………あたし達の写真」 割れたのはロフトに置いていたガラスのフォトフレームだった。 二人で札幌の時計台の前で撮った写真を見て、思わず青ざめた。 写真の中で笑っている彼女の額にガラスの破片が刺さっている。
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