不完全なアイ

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「“ご主人様”、それ以上は言ってはダメですよ。 私は、所謂しがないメイド。 しかも“ご主人様”のような“ヒト”ではありません。 姿形はヒト型でも、中身は自立思考型コミュニケイタブルヒューマノイド、“YAECO-H”なんです。 だから“ご主人様”と私は交際なんてできません。 その代わりと言ってはなんですが、私が今日新たに学習した“母親のように守りたい”という新しく獲得した感情をフルに使って、絶対に“ご主人様”にぴったりの彼女を見つけて差し上げますからね」 そこまで言って私は大きく息をひとつ吐きました。 “母親みたいに守りたくなる”感情を学習する前。 SNSを通して学習した、“特定の男の子を見るとドキドキする”感情や“その男の子が他の女の子と一緒にいるところを想像してイライてしまう”感情。 私の機能を惑わせるこれらの感情は、メモリーからデリートされたわけではありません。 なので、正一郎くんのお世話をしている限り、今後いつまた顔を出すか分かりません。 元々私には、メイドとして必要な情報しかインプットされていませんでした。 でも私に備わっていた“自立思考”機能で新しい情報を学習するたびに、思考回路はより複雑になり、より“ヒト”らしく、いや、ご主人様である正一郎くんの要望に沿って、同世代の女の子らしくなってきました。 そして得られた“新しい感情”。 これが、SNSなんかで若い女の子がよく呟いていた“好き”とか“ジェラシー”、あと弱っている男の子を守ってあげたくなる“母性”なのでしょう。 “ヒト”はいろんな感情を抱えながら、喜び、葛藤し、時には上手くいかない現実に涙を流すのですね。 私にはどうやら“涙を流す”という機能は備わっていないらしいのですが、“好き”や“ジェラシー”を獲得してしまったメイドの私には、その心情はとてもよく理解できます。 「私、たった今、また新しい感情を学習しました」 私はそう呟くと、再び正一郎くんを、さっきより少しだけ強く抱きしめました。 そして正一郎くんに聞こえないような声でこっそりと呟きます。 「ズルいかもしれませんが、今だけは“彼女”として、抱きしめさせてもらいますね」 了
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