不完全なアイ

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「ちょっと待って。もう少しここにいてくれないかな」 ベッドメイクと明日着る洋服の準備、スケジュールの確認も終わり、お休みになるご主人様のためにそろそろ部屋を出ようとしたところ、私はご主人様である正一郎様に呼び止められました。 「なんでしょう?ご主人様」 私がお仕えする正一郎様は、中学3年生。 背は高く、私の知る中では美男子と言っても差し支えないお顔立ちながら、ふとした表情にまだまだあどけなさの残る、優しいご主人様です。 その正一郎様が、何やら恥ずかしそうに俯いていらっしゃいます。 どうやら勇気を振り絞って私を呼び止めたのはいいが、この後どう切り出せばいいか悩んでいらっしゃるご様子。 私は正一郎様のお父様、勘太郎様の命でこのお屋敷にやってきたメイド。 複数の会社を経営されて日々忙しい勘太郎様の代わりに、早くにお母様を亡くされた一人息子の正一郎様のお世話をさせていただいています。 といっても、このお屋敷にやってきてまだ数週間。 このお屋敷に来るまで私がどこで何をしていたか、自分が今何歳なのか、私の家族がどうしているのか、その辺りの記憶は一切ございません。 ただメイドとしてのお仕事は無意識のうちにできているので、おそらく以前もメイドとしてどこかのお屋敷でお仕えしていたのではないかと、ぼんやりと思っております。 「ね、ねえ八重子さん」 ようやく正一郎様が口をお開きになり、私の名を呼びました。 名前と言っても、記憶のない私がこのお屋敷に来た時に、薄っすらと認識していた「ヤエコ」という呼び名を元に、勘太郎様と正一郎様が、字を当ててくださった名前です。
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