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三十分くらいの後、僕はマンションに一人でいた。春奈さんはどこかに出かけていて、留守。ちょうどいいと僕は思った。
あの男は合鍵を持っているだろうか。いや、おそらくはない。
あの優しい目の男も、その前の男も、合鍵は持っていなかった。
春奈さんが僕のことを気にかけたわけではなく、単に彼女の資産に手をつけられることを恐れていただけなのだろうということを、僕は今はっきりと悟った。
ともかく、僕は合鍵のあるなしであの男が来たことがすぐに分かるだろうと考えた。
インターホンが鳴ったら、それはその男が来たと云う事だ。
僕は黙ってマンション入り口のロックを解除し、そのまま玄関の内側でじっと待つ。
チャイムが鳴ったら思い切りドアを開け放つ。
戸惑う男。
そこに、ポケットの中のこの刃物を取りだすのだ。
刺しはしない。脅すだけ。男の惨めな表情を見さえすれば僕は満足だ。それで許してやる。
楽しい妄想に僕の心臓が鼓動を増した。
それからずっと待つ。
コートを着たまま、ポケットに例のものを裸身のまま刺すようにつっこみ、その味わいを指で何度も確認した。
指を切らないように、でも切って血が出る寸前くらいまですれすれに。
そしてとうとう、インターホンが鳴った。僕は素早くロックを解除した。
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