僕の音色

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 今は春奈さんが言うまでもなく、そういうときは僕は買物に行くとか忘れ物をしたとか、友人と会うとか言って、軽い学校指定のナイロン鞄をつかんですぐにまた外に出ていく。  春も夏も秋も冬も。  なぜ春奈さんがあの男の人と一緒にならないのかは不思議だった。  春奈さんはそう云う事の激しい人ではない。来た人は二人だけ。しかも二股ではなくて、最初の人が来なくなったあとに、次の全く別のタイプの人が来るようになった。  その人は身体こそ大きいが目が優しく、しかも独身なので、不倫でも何でもない。  僕の後見人になったときに春奈さんはわずか二十三で、大学を出て働きはじめたばかりだった。  自分も生活が変わって苦しい中、本当によく、小学生の僕を預かってくれたと思う。  春奈さんは時間をつぶして帰宅した僕のために温かい夕飯や手作りのお菓子を欠かしたことがない。  クラスメイトや部活の友人の親で、こんなにしてくれる人はほとんどないということだった。それも理由はあって、昼は勤め・パートに出ているお母さんが多いという話だった。  だから僕はむしろ恵まれている方だと思っていた。
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