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喫茶店に電話がかかってくる。
『セイジそこにいますか?』
「あ、来ましたけど随分前に帰りましたよ」
『戻ってないんですよ!もうライブ始まるのに!』
セイジは、人ごみの中にいた。靴屋の前の柵に腰掛けて人の流れを見つめていた。
自分のほうを見てこそこそ話している人もいる。
でも声をかけてくるまではない。
(…あ…っちーなー)
かぶっていた帽子を脱いで眼鏡も外し顔を扇ぐ。
途端に周りに人だかりが出来たがセイジは気にせず動かない。遠くを見るような目をしていると何故だか誰もそれ以上近づこうとはしないようだった。
自分をじーっと見つめる人々の向こうに、通り過ぎながらちらりとこっちを見る美人と目が合った。
彼女はほんの少し微笑みかけるとすぐに前を向きなおり、そのまま行ってしまった。
セイジは下を向いてふっと笑うと立ち上がり、彼女の逆方向へ歩き出す。
「ごめんね、通して」
体育館から出てきたあの二人はそこでまた彼とすれ違った。
推しが予選敗退して泣きながら家路につく途中で。
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