2. 僕の推しはイケメン【男子高校生・慧人(18)】

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 ゲーム好き、アイドル好き、アニメ好きの三拍子そろった大夢と陸は、きっと女の子から見たらいわゆる「オタク」な種族かもしれない。でも、男子校ではいたってデフォルトな存在だ。性格も悪くないし、記憶力抜群で成績もいい。不潔なわけでもないし、人と話をあわせるコミュ力もそれなりにある。男子校でよかったと慧人は思っていた。共学だと、こういう子たちが運動系やリア充の男たちから距離をおかれがちだ。「俺はこいつらの仲間じゃない」という女子へのアピールで。  もし共学だったら、卓だって自分と仲良くしてくれたかどうかわからない、と慧人は疑っていた。卓は女の子が大好きだ。毎日「帰ろうぜ」なんて慧人に声をかけてくれなかったかもしれない。  ゲームに夢中な二人の隣で、卓はまた慧人のコーラを奪って涼しい顔で飲んでいる。早く電車がこないかな、というようにホームの先を眺めていた。慧人も同じ方向を見る振りをして、さりげなく卓の横顔を観察した。いつ見ても色白できれいな肌だ。髪もサラサラできれいな艶がある。特別ケアはしていないというけれど、本当なのだろうかと疑ってしまう。  卓の横顔が慧人は好きだった。どことなくのハルに似ていた。正面から見るとハルほど完璧には整ってはいないのだけれど、すうっとした角度のいい鼻筋とシャープな顎のバランスがハル級の美しさだ。イケメンらしいクールな目をしているけれど、黒目が大きくて笑うとなんとも可愛らしい。そんな雰囲気がハルを彷彿させる。  IF5のハル。つまり、慧人の推しは男だ。推しが男だなんてリアルでは友達には極秘だし、家族には「憧れて目標としている芸能人」ということでポスターやグッズで部屋が溢れていることの言い訳にしている。  慧人の生活は、普通の男子高校生として振る舞う「現実世界」と同性愛者と自認してハルというIFの恋人がいる「空想世界」のパラレル・ワールドで成り立っていた。後者は誰にも打ち明けられない秘密だった。そのことを知っているのは慧人の中に住むIFのハルだけだ。  電車が遠くに見えた。定刻通りの到着案内が流れる。大夢と陸は対戦ゲームの勝負がついたようで「よっし!」「うわー、やられたー」と声をあげると、ほとんど同時にスマホを縦に持ち直した。大夢の待ち受け画面はアイドルの女の子、陸の待ち受け画面にはアニメの女の子が設定されていた。 「なんだよ、この二次元コンプ!」とゲームに負けた大夢は陸のスマホを覗き込んで悪たれをつく。勝った陸は満足顔で「うるせー、ドルオタ!」と吐き捨てた。慧人からすればどっちもどっちだった。  各駅停車が近づいてきた。電車の正面のデザインがいつもと違って真っ青だった。列車がスピードを落として入線してきた瞬間、卓は不快感を露わにした叫び声を上げた。 「うげーーーーーーーーーーーーーー!」
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