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プロローグ ~IFとミリオンズ~
君はイマジナリー・フレンド――略してIFって聞いたことある?
直訳すると「空想上の友達」。
愛情に飢えた人、特に孤独で寂しい子どもはIFを作り上げて精神的な支えにして乗り越えようとすることがあるらしい。僕にはいなかったけどね――当たり前だな。僕は実在する「人間」じゃないから。
僕はアイドルグループ『IF5(アイエフファイブ)』で一番人気を誇るハルのイマジナリー・フレンドです。名前は知らないけど、ハルはずっと「お兄ちゃん」って呼んでくれていた。
ひとりっ子だったハルは自分勝手で恋多き女優のお母さんの下で辛い思いしながら育ったんだ。僕はハルに必要とされた時には必ず現れて、ハルをいっぱい慰めたよ。独りじゃないよ、って諭しながら。
もうずいぶん昔の話でね。ハルはすっかり大人になってしまって、もう僕を必要とはしていない。
寂しいな。でも、いいんだ。ハルがもう僕を必要としていないなら、それはハルが孤独ではないということだからね。
ハルは運命に導かれるままアイドルになった。
ハルが所属するグループの名前『IF5』は5人のイマジナリー・フレンドっていうコンセプトで名付けられたんだ。
自分でいうのも何だけど、ハルは幼い頃、僕に励まされたことに感謝してくれている。IFに励まされる人の気持ちがわかるから、ハルはファンたちの空想上の恋人として心に寄り添えるアイドルになろうと努力してきたんだ。
IF5のファンたちは「ミリオンズ」って呼ばれている。何百万人もの恋人、っていう意味なんだ。
ハル・ナル・ゲン・シン・リンの5人組。ミリオンズたちはみんな彼らに恋をしている。ハルはその中でも一番人気だったんだよ……これまでは、ね。
でも、いまハルはある事件が原因で窮地に立たされている。人気もガタ落ち。
今は人前に立つことさえ怖いんだ。
何があっても、何十年も応援してくれるファンのことを「ロイヤル・ファン」という。どんなことがあっても、ハルのことを推し続けてくれるミリオンズはどのくらいいるんだろう。
ミリオンズがハルに向ける想いはそれぞれだ――中には好きすぎて病んでる子も、いる。そんな子が大変な事件を起こしてしまった。でも、形は違っても、ハルを想う恋心には違いないんだよね。
ねえ、この物語に登場する8人のミリオンズの心を覗いてみない? もちろん内緒でね。
8人はどのくらいハルを愛しているんだろう。どんな思いなんだろう。7人の熱い思いと1人の屈折した思い。それぞれの「推し愛」はハルに伝えることができるんだろうか。でも、いつ、どうやって?
さあ、準備はいい?
僕はもう最後まで黙っているからね。
あなたの想像力を働かせて、僕について来て!
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