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「これは……中々ね」
庭園跡を抜け、邸内へと足を踏み入れた私の口から呟きが漏れる。
荒れているだろうと思ってはいたけど、内部は私の想像以上だった。
僅かに家具が残ってはいるものの、どれもボロボロで分厚く埃を被っている。
それだけならまだいい。
床にまで積もった埃は、一歩歩く毎に舞い上がるし、くっきりとした足跡まで残る。
とてもではないが、住むどころか今晩寝る場所の確保すら難しいのではないかと思える有様だった。
「すぐにお嬢様がお休みになられる場所だけでもご用意致します。
申し訳ないのですが、それまで馬車の中でお待ち頂けますでしょうか?」
そう言うマリーに目を向けると、いつの間に用意していたのか。
その手にはホウキやモップといった掃除用具が握られている。
「あらマリー。いくら貴女でも一人では大変でしょう?
私も手伝うわよ」
「え?ですが……」
戸惑うマリーの手から、強引にモップを奪う。
確かに掃除なんて自分でやったことはない。
王都の屋敷でも、領地の屋敷でも掃除はいつだって専任のメイド達の仕事だったし。
でも、当然ながら彼女たちはここにはいない。
マリーは貴族学校では私の部屋の掃除をしてくれていたから慣れているだろうけど、それでも一人では大変だろう。
それに、今更身分も何もない。
私は全てを捨てるつもりでここに来たのだから。
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