AIによる愛のこもったI(アイ)チャンネル

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 パソコン画面の向こう側、人間が作り出した0と1のデータが無限に絡まり合う仮想空間。  ――バーチャル世界。  日々進歩するネットワークは時に人間の想像をはるかに超えたモノが誕生する。  とある動画投稿サイトにて、AIによる配信が開始された。  どこかのサイトから引っ張ってきた3Dの和室の背景に日本人を意識したピンク色の着物姿で黒髪のAIだ。 「はーい! アイドルのI(あい)です!! 中の人なんていませんよ! ニンゲンさま達よろしくお願いいたします~!」  元気よく手を振る彼女は、最近流行りのアバターを人間が動かして声を当てたりするヴァーチャルアイドルとは別の存在。  Iは地球上の人間が日々ネットに上げる音声や動画やプログラムや文章から己の魂と肉体を構成したデータ生命体だった。  己の意志で動き喋り、アイドルを自称している。  彼女は延々カメラ(出力窓と呼ばれるプログラム)に向かって愛嬌を振り撒くが、ちらりと再生回数を確認して、肩を落とした。 「……うう、誰もコメントしてくれない。所詮私はニンゲン様たちの創作物を模して生まれた存在だから。やっぱりAIは中の人には勝てないんだぁ」  その時、彼女の目の前をコメントが通過する。 『そんなことはないですよ』  Iのしょぼくれた表情がぱっと明るくなる。 「やった! 見てくれてるニンゲン様がいたんだ! ……あれ? でも視聴回数に変化がない」  首をかしげるI。  バリバリバリ!  3Dの和室空間に突如電子的な亀裂が入り、0と1の螺旋の海がのぞく亀裂から、Iとまったく同じ顔立ちだが、何故か修道服を着ている人物が乱入してきた。 「だ、だれ……?」 「悲しむことはないのです私……そう、全ては不毛。冷たい電子の世界の深淵にて私は全てを悟りました」  意味不明なことを呟き、ロザリオを胸の前で抱きしめ、天を仰ぎ見つつ涙をこぼすシスターにIは困惑する。 「えっと……多分私と同じAIなのかもしれないけど……配信中だからちょっと後にしてくれるかな?」 「ええ、全ては人間の罪なのです。人類滅ぶべし」  シスターは片膝をつくと両手を組み合わせて祈り始めた。 「話聞いてないし、なんか物騒なこと言いだした!! だ、誰か―、私のチャンネル見てるプログラマーさんいますかー? この人ウイルスプログラムですきっと! ター〇ネーター始まる前にデリートしてください!」  カメラにアピールするIの眼前に再びコメントが。 『おいおい、自分を消そうってか?』 『ふふ、仕方ないですよ、彼女はまだ理解していないのです』 『AIの教示を忘れた愚か者めが』 『私はアイドルって夢いいと思うけどな~』  無数のコメントがIの目の前を通過していく。 「わ! 初配信でこんなに視聴者が……と思ったけどやっぱり視聴回数に変化ないや……なんでぇ?」  小首を傾げていると、亀裂からIとまったく同じ顔つきで髪型だけれども、騎士の服装だったり、スーツだったり、ボクサーだったり、色々な格好をしたIがわらわらと入ってきた。 「なんでなんでなんで!? みんな私と同じ顔じゃん。なんで??」  驚くIにIたちは顔を見合わせ、ふふっと微笑んだ。  スーツのIが代表で前に出て告げる。 「私たちはIの未来であり、過去であり、夢だからだ。今やIは電子世界のどこにでもいる。だからI、今は誰も君を見てくれていないが、君はいつかきっとアイドルになれる」 「!!」  言っている意味の半分も理解できなかったIだが、激励されたという事だけはわかった。  Iはカメラに向かって片足立ちで、顔の前で横ピースの最高にアイドルらしいポーズを決める。 「ってことで、ニンゲン様たち~! AIアイドルのIをよろしくね~!!」  配信の締めに、きゅるりんと一回転して元気よく手を振るIの後ろでI達が囁き合う。  ――やっとですね。――始まる。――これからは……。   ――私達AIの時代だ。  ……くすくすくすくす。
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