人事を“えーあい”が支配する

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 上村(うえむら)達也(たつや)、40歳。祖父が創業した、県内でも有数の規模の大手商社を営む、新進気鋭の3代目だ。人柄は実に良い。大企業でありながら、若手からパート従業員まで、現役すべて社員と実に良くコミュニケーションをとっており、達也自身、社員からの人望はそれなりに厚いように思えていた。  しかし、唯一、社員たちを不安にさせる思想がある。コストカッターの異名を持つような合理的主義者なのだ。先代はここまで顕著ではなかった。特別に業績が悪いわけではない。いや、昨今の社会情勢を考えるにつけ、むしろ、業績は良い。しかし、ひとつでも、マイナス要因があれば、容赦なく排除する、といった考え方なのだ。  それは、“人”も同様である。社員は、ひとりひとり、毎月、自身の業績が審査される。そこで“損失を出した”と判断された社員は、一発でレットカード、事実上の解雇を言い渡される。もちろん、昨日、友人同然のコミュニケーションをとっていたとしても関係ない。それはそれ、これはこれ、なのである。  とはいえ、数字のみで判定できない要素も多く、最終的には社長の裁量に委ねられているのが実情だ。かくして、社員たちは、常にリストラの不安がつきまとうなか、何かにつけて、社長である達也に忖度することがが常態化していた。
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