副校長先生

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「どうしたの?」 「あのね、お母さん。来たんだよ」 唐突な言葉を投げ掛けられる。 「うんうん、新しい副校長先生でしょ?」 「……違う。フシンシャ」 「不審者?」 「フシンシャが出たら、副校長先生の挨拶があるから体育館に行かないといけないの。避難訓練でやったから」 「なんで不審者が来たら、新しい副校長先生の挨拶があるの?」 「違うよ。いないよ」 娘が何を言っているのかわからない。 テレビを見て、私は膝をついた。 あの大きなハンドバッグを持った男の顔があった。犯人として。 捕まったというのに、出会ったときと同じ笑みをしている。 娘は控えめに言う。 「副校長先生なんていないよ」 「いない?」 「副校長先生の挨拶って言われたら体育館に逃げるの」 副校長先生なんていない?そういえばそう、校長先生の次は教頭先生。 まだ娘の学校を理解していなかった私には考えもつかなかった。 ニュースキャスターが淡々と変わらない口調で言う。 『犯人の供述によりますと、《子供を無差別に切り殺すために上池小学校へ行ったが誰もいなかったので緑川小学校へ来た》ということです。不審者を発見した上池小学校が隣接する小学校へ迅速に連絡しましたが、対応が間に合わず今回の被害になったということです』 ……隠語。 犯人を刺激せずに子供たちを体育館へ避難させるため。 もしかしたら、一歩間違えれば娘は切り刻まれ、命を落としていたかもしれない。 本当に、私が小学生の頃と違う。 娘を抱き締める。 私は足の震えが止まらなかった。 ここにいる娘のぬくもりが、何より幸せだと気づいた。 脳裏に浮かぶ。 「みなさん、副校長先生のお話があります。体育館に集まって下さい」
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