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その日の放課後、貴也は鞄を持ちながらテニス部に一人で訪れた。そして、練習中の女子部員をコートの外から眺める。
彼女達はテニス部の服装をしながら、ラケットを振ってサーブの練習を一生懸命やっていた。その中で白いリボンで髪を結んだポニーテールの少女がいた。彼は見つけると、黙ったまま彼女の方をジッと見た。
練習中の女子部員の一人が、コートの外にいた一人の男子生徒に気がついた。貴也の他にも別の男子生徒達が見ていたが、彼らよりも身長が高かった為に周りよりも目立っていた。ギャラリーの中に一人だけ、顔の良い男子生徒が紛れている事に彼女達はヒソヒソと小声で話す。
「あそこに居る身長の高い人、顔が凛々しくて素敵! やだ〜、もしかして私のこと見てるのかも!?」
「はぁ? アンタなわけ無いじゃない。あたしを見てるに決まってるじゃないのよ!」
「何よ~! 私に決まってるでしょ!? どう見てもこっちの方がスタイル良いんだから!」
「じゃあ、アンタ胸のサイズいくつよ!」
其処で女子部員の二人が口喧嘩を始めた。周りがキャッキャッしながらざわつくと、ポニーテール頭の彼女が騒ぎに気が付いて練習を中断する。
「ねぇ、朋子。みんなどうしたの?」
「茉優! ちょっと大変よ、あの人がコートの外から見に来てるわよ!」
そう言って慌ただしく駆け寄って来ると彼女の手を掴む。
「え、嘘……」
「きっとあの時の話しじゃない? 屋上で告白失敗したけど、やっぱり考え直したに違い無いわよ。だって茉優、可愛いもん! ホラ、あの人と話して来なさいよ!」
「そっ、そんなのいきなり困る……! 私、あの人と何話せば言いか分からないよ…――!」
「なに言ってるのよ茉優、二度のチャンス逃す気? こう言う時は当って砕けろよ!」
「ちょっ、ちょっと朋子……!」
強引に彼女の手を引くと貴也の方へと堂々と彼女を引っ張って連れて来た。そして、フェンス越しで一言彼に話す。
「見直したわよ少年! やっぱりフッた事を後悔して茉優に会いに来たんでしょ? 言い、何も言わなくても私には全部解るから!」
彼女はそう言って謎の自信を持つと、彼女の背中を押して前へと突き出した。茉優はフェンスの前に立たされるとラケットをギュッと両手で握り締めて、顔を赤くして俯向いた。そして、緊張した声で話した。
「あ、あの……!」
「――君さ、練習いつ終わる? 話があるんだ。後でいい?」
貴也は彼女の一言伝えた。急に話しがあると言われると、茉優は彼の顔を見て返事をする。
「は、はい……! 大丈夫です…――!」
「そう。じゃあ、向こうの花壇で待ってるから、後で一人で来て」
彼女に待っている事を伝えると、遠く離れた花壇の場所に指を指した。そして、直ぐにその場から立ち去った。
「ねぇ、彼に何言われたの?」
友人は興味津々な顔で尋ねてた。
「え……? 後で話しがあるって言われたの……」
「嘘、良かったじゃん! きっと良い事あるよ!」
そう言って友人は喜んだ。彼女は戸惑った顔をしながらも、彼が自分に会いに来てくれた事に素直に嬉しく感じた。そして、練習が終わると急いで花壇の場所へと走って向かった。
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